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第4話

「え、嘘…」  嘘、という言葉を聞いても、クロスはただ寂しそうに笑っているだけだった。 「クロス…?」 「吸血鬼、って知ってる?」  私は、黒いマントを着た黒髪の牙の生えた男を想像した。  十字架に弱くて、日光の下では生きられなくて、人間の生き血を吸う。想像上の人物を。 「人の血を、吸うの…?」 「うん」 「うそ、だって、日光の下で笑ってるじゃない」  だけれど、日光に透ける茶色の髪も、色素の薄い肌も、確かにこの世界のものでは無いような気がしていた。  むしろ、それは吸血鬼ではなく、もっと、神秘的な、天使の様な存在なら頷けるのに。 「それは、理由があるんだ。ある時が来たら、僕は夜の世界でしか生きられなくなる」 「それって、私はどうなっちゃうの?まさか…置いてけぼり?」  膝の上に置いていた手の甲に、温かいものが触れた。  見れば、それは私の目から溢れた涙だった。 「羽織」  隣に並んで座っていたクロスが、目の前に座る。  「羽織、僕と、一緒に居てくれる?僕と、夜の世界で生きてくれる?」  真剣な表情を縁取る茶色の髪が、微かに震えていた。  私の手を握った大きな手も、冷えている。  私は、この手を守りたいと思っていた。
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