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第2話

  クロスは帰国子女だ。  どうやらお母さんがフランス人らしい。らしい、というのは、話にしか聞いたことがないからだった。クロスは家政婦のみちよさんと一緒に一人で日本で暮らしている。  家政婦のみちよさんとは何度か話をしたことがある。とても優しい家政婦さんだった。  恋人未満の私たちに、お茶を用意してくれたり、きっとやきもきしていただろうと思う。 けど、それも今日からは違う。  ちょっと、綺麗過ぎて隣に並ぶのが恥ずかしいけど、私は、彼に認められてれっきとした恋人同士になったのだ。    それは、私の誕生日を三日後に控えた、冬のことだった。 「誕生日の予定?」   私はお昼ご飯のパンをかじっていた。  屋上には、数人の生徒たちがお昼休みを過ごしている。 「何もないよ。…え、と、クロス…は?」   期待してないと言えば嘘だが、なんとなく、自分のために動いてくれると素直に思えていない自分がいる。  クロスは、微笑んで私の髪をそっと撫でる。 「君に、プレゼントしたいものがあるんだ」 「え、プレゼント?」 「そう。明日の夜、誕生日をお祝いして、それから」 「な、なに?」 「君と、ずっと一緒居られるように、って僕のためのものでもあるけど」 「私も…」  一緒に居たい。と言いかけて、ふと目のが暗くなった。  クロスが、唇を合わせていた。  そっと離れると、クロスは悪戯をした子供の様な顔で、笑う。 「人前でも、キス出来るようになったね」   言われて、ここが他にも生徒が過ごしている屋上であることを思い出した。 「も、もう…っ!」  結局、プレゼントは何なのか聞けなかったが、既に私は幸せだった。
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