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記念写真

【注意】  亜紀の母親・聡子視点です  亜紀が三歳の誕生日を迎えた朝、伊豆の別荘に亜紀の叔父である兼元(かねもと)が一人でやってきた。兼元は亜紀の父親の弟で、聡子にとっては義理の弟にあたる。夫・兼秋(かねあき)によく似た風貌ではあるが、それより少し体つきががっしりとしていた。体の大きな兼元が、大きなクマのぬいぐるみを抱えてやってきたものだから、出迎えた聡子は苦笑いしてしまう。だが、兼元は誇らしげだ。 「これいいでしょ、女の子に何をあげたらいいか迷っちゃって」  兼元は得意げな顔で、クマのぬいぐるみを聡子に見せた。 「でも大きすぎるわ、兼元さん。亜紀、驚いちゃうかも……」 「泣かれたら困るな……」  苦笑いする聡子の姿に気づいた兼元が、つられて苦笑いした。 「で、義姉さん、亜紀はどこ?」 「いま庭先でお隣の和明くんと茜ちゃんと遊んでるわ」 「へえ、お友達ができたんだ」 「そうよ、といってもお兄ちゃんとお姉ちゃんだけどね」  亜紀の母親・聡子は義弟・兼元(かねもと)を建物の中に招きいれながら会話を交わす。 「そういえば今日、剛毅が連れて行けってうるさくてさ」  剛毅は兼元の息子で、亜紀が生まれる二ヶ月前に生まれていた。 「剛毅くんも大きくなったでしょ、美音子さんも大変ね」 「まあ、うちは爺さんの干渉を受けないから気楽だけどね」  苦笑いする兼元を見て、聡子は思わず表情を曇らせた。上条家の嫁として迎え入れられ、求められたものは後継となる男児を産むことだった。だが生まれてきたのは女児で、それを聞いた舅と姑の顔はいまでもはっきりと覚えている。折角この世に産まれてきた愛娘をひと目見るや舌打ちし、苦々しい表情を浮かべていたことを忘れろというほうが無理である。  愛する男との間に生まれた子供だ。男でも女でも構わなかった。なのに現実は産まれてきた娘を忌々しげに眺められて、気持ちのいい親などいない。その上退院し部屋で休んでいるときに姑がやってきて、二度と子供が望めないようでは離婚をしたほうがいいと迫られ続けたせいで、聡子はいつの間にか心身のバランスを崩してしまっていた。  それを気に病んだ兼秋が、伊豆での静養を決めたのだが、それを彼の両親、つまり亜紀の祖父母に申し出たところ、当然のことだが頭ごなしに反対された。そして、もう子供を望めぬ聡子と早く離婚をし、結婚せずとも男児をもうけろと迫られてしまう。  それが気に入らない兼秋が、妻子を連れて伊豆の別荘で過ごすことに決めたのは、亜紀が生まれてすぐの頃だった。そして今度こそ上条家との縁を切ると言い出したのだが、それに慌てふためいた両親がしぶしぶ伊豆での静養を認めたのだ。そのとき兼秋はもう一つ切り出したことがある。それは、いずれ亜紀を上条家の後継として据えることだった。  だが、両親の反発は強かった。しかし、さほど時間がかからず収った。それは恐らく、父親の意に反している兼元を後継に据えたくないからだ。もしも弟が後継になったならば、母親の実家である北条家との繋がりが途絶えてしまう。そうなれば、父親が医師会の要職に返り咲くのは難しくなる。そう思い至った兼秋は、両親の動向から目を離さなかった。  その後、両親は条件を付けて亜紀を後継にすることを了承した。その条件とは、亜紀が3歳を迎えたあとの養育を両親が行うことだった。それをさせなければ、亜紀を後継として認めるわけにはいかないし、聡子と離婚させると迫られてしまい、兼秋はそれをしぶしぶ飲んだのだった。  自分たちをよく思っていない舅や姑が、彼らの意のままに動かせるように亜紀を育てようとしていることは明らかだった。そうなるくらいなら離婚したほうがいいと聡子は夫に申し出たのだが、それを頑なに拒まれてしまう。自分たちの幸せのために娘を差し出すのかと強く問い詰めたのだが、兼秋はいたしかたなかったとだけ繰り返すばかり。それを聡子は、苦々しく感じていたのである。聡子が沈んだ表情を浮かべていると、兼元から話しかけられた。 「義姉さん。そう言えば、来年の春から剛毅も爺さんとこにやるから大丈夫だよ」 「え?」 「きっと爺さん、剛毅にてこずるはずだから、亜紀のことだけに集中できなくなると思うぞ」  聡子は兼元の顔を見上げると、にやにやと笑っている。兼元の妻・美音子から時折送られてくる手紙の中には、剛毅の武勇伝がつづられている。それを頭の中で思い返し、聡子は苦笑いした。 「だから、心配しないで。剛毅は絶対亜紀を守るからさ。さあ、亜紀にこれを渡して写真撮っていかないと、美音子と剛毅が怒る」  そう言って兼元は、脇に抱えている大きなクマのぬいぐるみを聡子に見せて微笑んだ。
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