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第37話

 ノームの長・パジェルに案内されて向かったのは、広場の中央にある三角テントのような建物だった。形こそ三角テントだが、布張りではない。不揃いの石を積み上げられたものだった。  ノームの身長は低い。高くともせいぜい20センチ程度だ。しかし、その建物は真やセーレが問題なく利用できる高さになっている。促されるままに中に入ってみると、案外広かった。外から建物を見ると、せいぜい二人が限度。しかし中に入ると、もう少し多くても大丈夫そうだった。真が建物の中をぐるりと見渡していると、愉快げな笑い声が聞こえてきた。ノームの長はたっぷりとした白髭を撫でながら、満足げな笑みを浮かべている。 「広いだろ」 「えっ?」  パジェルの姿を見ていたら、セーレの声が前のほうから聞こえてきた。  胸のうちを見透かされてしまったような気がして、真はぎょっとする。 「それよりも、早くこっちに来て座れ」  いつの間にか絨毯の上にあぐらをかいて座っていたセーレが、戸口に立ったままの真に顔を向けながら隣をポンポン叩いた。真が紙袋を持ったまま、セーレの隣に腰をおろすと、パジェルがのろのろと向かいに座る。 「お疲れさまでございました。お二人がこちらにいらっしゃるときを、お待ちしておりましたぞ。」  長い白髭を蓄えた老人が、目の前で深々と頭を下げる。真は掛けられた言葉に違和感を覚えた。パジェルから掛けられた言葉に真が違和感を抱いたのは、あらかじめこうなることを予想していたように思えたからだ。セーレはともかく、ノームたちは自分の存在を知らないはずだ。それなのに、なぜパジェルがそのようなことを知っていたのかと真は怪訝な顔をする。すると、その答えはあっさりと見つかった。 「ということは、知ってたってことだな。じいさまよ」 「ええ、我が師からしらせが来ておりましたので。そして伝言も預かっております」 「伝言?」 「ええ。二日前にガルーダとともに、伝言が届いたのですよ。至急参られよ、と」  真は、パジェルとセーレが交わしている会話を聞きながら、彼らを交互に見る。  すると、意外なことでも聞かされたのか、セーレが目を大きくさせた。 「ガルーダが来てるのか?」 「ええ、奥で休んでおりますよ。セーレさまが森に入られたとき、嬉しそうな声で鳴いておりました」 「こっちに着いたらガルーダを呼んでもらおうと思ったのに、先に来ていたとはな……」  パジェルに苦笑を向けたあと、セーレは思案し始めた。  それをじっと見ていると、セーレがため息をはく。 「真、計画変更だ。ロザリンド師が俺たちに何か伝えたいことがあるらしい。渡すものを渡したら、そっちに行こう。さっき渡した紙袋をパジェルじいさまに渡してやってくれ」 「あ、ああ……」  真は脇に置いていた紙袋をパジェルに差し出した。小さなパジェルは紙袋の影になってしまい、真の視界から消えてしまう。 「おお、待っておりましたぞ。みんな入ってこい。セーレさまが、また道具を持ってきてくれた」  パジェルがそう言ったあと、すぐに床からあの淡い光が現れた。真はぎょっとした顔をする。小さな光はひとつふたつと増えていき、紙袋を取り巻いたあと、それとともに地中へ消えていった。 「今回持ち帰ったものは、部品が細かいうえに多い。だから大変かもしれんが、頼むぞ」 「はい。以前頂いたものも細かな部品が多く、始めは大変でしたが、今はもう量産できるようになりましたから、大丈夫でしょう」  パジェルが豊かな白髭を撫でながら言ったあと、セーレが立ち上がった。 「さて、と。真、行くぞ」 「えっ?」  急に声を掛けられて、真は目を大きくさせてセーレを見上げた。  セーレはすぐに呆れた顔になる。 「ロザリンド師に会いに行くぞ。ほれ、とっとと立て」  セーレに追い立てられてしまい、真はのろのろと立ち上がった。 「どうだ。美しいうえに、おとなしいだろ?」  真は巨大な鳥を目にして、言葉を失ったままその場に立ち尽くした。  目の前では金色の光を発している鳥が、顔をうっとりとさせたセーレにクルルクルルと鳴きながら顔を寄せている。体毛よりもくすんだ金色の瞳が細くなっていて、セーレと会えた喜びを感じられる。  ガルーダはインド神話に登場する神鳥だ。だがそのようなことを真はもちろん知るわけがない。しかも、今まで見たこともないような姿をした大きな鳥だ。真はぼう然としたまま、セーレに甘えている鳥を眺めていたのだった。 「ロザリンド師のところに俺たちを連れて行ってくれ、ガルーダ。頼んだぞ」  セーレがガルーダの巨体を覆う光に手を差し込んで撫でると、ガルーダはそれに応えるように短い声を出した。それを真は体を石のように硬直させたまま凝視する。驚きのあまり言葉を失い、立ち尽くしている真にようやく気づいたのか、セーレが苦笑した。 「真、行くぞ」  だが、真の耳には届いていない。セーレは呆れたようなため息を吐き出して、立ったままだった真の腕を強い力で引き寄せた。そして無理やり巨大な鳥の背中に乗せたあと、真の前に飛び乗った。 「行くぞ、ガルーダ。頼む」  そう言いながらセーレは、短い毛で覆われた太い首をいとおしげに撫でる。  すると、ガルーダはふさふさとした大きな翼をぶわっと広げて、二人を乗せたまま空に駆け上がっていった。
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