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第35話

 視線を感じそれをたどると、セーレから真面目な顔を向けられていた。  真が怪訝な顔で見つめ返すと、苦笑いで返される。 「お前、変わったやつだな。前々から思っていたが」  セーレからそう言われた直後、真はその場で立ち止まる。  少し前を歩いていたセーレが、それに気づいて振り返った。 「真、どうした?」  舗装されていない道の真ん中で、真は呆れた顔でため息をつく。 「前々から変なやつだと思われていたのか、俺……」 「変なやつじゃない、変わったやつだ」 「似たようなもんじゃないか……」  睨んだところで威嚇にもならないだろうけれど、真はセーレを恨めしそうににらみ付けた。 「そんな顔すんなよ。確かに変わったやつだが、おまえのことを買っているから、ここへ連れてきたんだからな」  軍服のような黒い服を着たセーレからずる賢そうな笑みを向けられて、真は再びため息をつく。そして辺りを見渡そうとしたそのとき、急に強い風が吹き抜けた。  黄金色に光る穂が、ざあっと音を立てながら風の動きにあわせてうねる。その様はまるで黄金色に輝く波のようだった。を仰ぎ見ると、白い雲が一分の隙がないほど空を埋め尽くしている。そのすぐ下を見たこともない鳥が飛んでいて、ここが人間界でないことを思い知らされた。 「東の国(ここ)は良いところだぞ。といっても、魔王さえ無理難題を言わなければだが」  声がした方へ目をやると、セーレが苦笑しながら再び歩き始めようとしていた。  真はもう一度空を見上げたあと、セーレのあとを追いかけた。  真が今いる場所は人間界ではない。地下の世界にある東の国だった。 『マリィ、頼みがある』  真がマリィに頼んだのは、一度でいいから地下の世界を見てみたいというものだった。すると、マリィはそれまで泣きじゃくっていたのに、急にピタリと泣きやんだ。そして涙で濡れた黒い瞳を向けられたとき、真は本能的に気まずいものを感じ取った。 『真。あなた、何を言っているの? あっちに行くと人間はすぐさまチリになって死んじゃうのよ! バカじゃないの?』  言い放たれた言葉にカチンときたが、真はぐっとこらえた。しかし、マリィは容赦ない言葉を投げかけてくる。マリィから聞くところによると、ただの人間が地下の世界に行くと、その肉体はチリと化すという。 『肉体だけでなく、魂もチリになってしまうの。そうなると、天上に行けなくなるから輪廻の輪に入れなくなるの……』  輪廻とは仏教用語で、命あるものは皆、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わることを差す。この思想は東洋思想の中でも特殊なもののひとつで、キリスト教など西洋の宗教にはないものだった。その言葉が淫魔であるマリィの口から飛び出たものだから、真は驚きを隠せなかった。それは、真の勝手なイメージとして、淫魔は西洋的なものであり、東洋的なものと重ならないからだった。  不思議な気分でマリィを見ると、彼女は思い詰めた顔でなおも訴えてくる。その表情が彼女の言葉が嘘ではないことを伝えてくれた。その後どうにかマリィをなだめすかし、真はセーレを呼んだ。どうすれば地下の世界に行けるか彼に尋ねたところ、マリィがやったような夢渡りを利用するならば大丈夫だろうと言われたのだった。 『真が眠っている間、俺が夢渡りして意識だけを地下の世界に連れていく。マリィはその間、真の体を守っていてくれれば問題ない』  そしてすぐに眠り薬をかがされて、夢に現れたセーレとともに真は地下の世界にやってきた。地下の世界は勝手に思い描いていたおどろおどろしい所でもなければ、奇異な所でもない。一見すれば人間界となんら変わらない風景が広がっていた。ただ、時折空を駆けるものが異形であることを除けばだが。 『本当ならば城に連れて行きたいところだが、お前が見たいものはそれじゃないだろう? ここに戻ったついでに、ひとつふたつ用事を足しに行くから付き合え』  この地にたどり着いたとき、セーレから掛けられた言葉だ。真が見たいと思ったのは、ありのままの国の様子だったから、セーレの指摘は当たっている。黒い詰め襟の服を着ているセーレに案内されてたどり着いたのは、東の国の南端にある田園地帯だった。そして二人は砂利道を北に向かって歩いている。 「もう少しすれば、ノームの森に出る。そこに着いたらガルーダを呼んでもらうから、空から国を見てみようか」 「……ガルーダって?」  未だ見えてこない森を目指して歩きながら、真はセーレに尋ねた。  すると、セーレが詰まった襟を緩めながら返事する。 「俺が雛から育てた鳥だよ。大きいがとてもおとなしい鳥だ。怒らせない限り襲いかからないから、安心しろ」  ガルーダという名前に聞き覚えがあるのだが、それがなんであるかすぐには分からなかった。真はセーレに頷いて見せた後、再び歩き出したのだった。
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