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第33話

 セーレが作った強壮剤のせいで、体は熱くなる一方だった。  その上、逸物がそれまで経験したことがないほど硬くなっていて、それとともに疼きも酷くなってくる。真は熱と欲情を持て余しながら、それでもどうにかして平静を保ちつつ奥の部屋へ向かったのだった。  白い引き戸の前に立ち、本能的に匂いを嗅いだ。わずかだが、マリィのチャームが漂っている。ということは、この扉の向こうに彼女がいるのは間違いない。しかし、そのマリィが何やら企んでいるらしいから、扉をあけていいものか真は躊躇する。  だが、わずかな甘い匂いであっても、劣情をあおり立てるには十分だった。体の奥からせり上がる肉欲に耐えきれず、真は扉に手を掛けてゆっくりと開く。すると、部屋の奥にあるソファに、見慣れぬ男が座っていたものだから、真は目を大きくさせたまま立ち尽くす。  男はがっしりとした体を仕立ての良さそうな黒いスーツで包んでいた。厳つい顔に顎から頬一面に生えそろった黒いひげがのせいで粗野な印象を与えがちだが、すっきり整えられた黒い髪と上品な身なりで打ち消している。真が男を凝視していると、それまで険しい表情を浮かべていた顔が破顔した。 「ぬしが婿殿か?」  威厳のある低い声。にっかと笑った顔には悪意は全く感じられない。むしろ久しぶりに会った親類のような雰囲気だった。しかし婿殿とはどういうことだろう。真は急に不安に襲われた。  声を掛けた直後、男はのっそりと立ち上がり、立ち尽くしたままだった真に近づいた。黙り込んだまま、真の全身を品定めでもするように眺め始める。そしてしばらく経ったあと、嬉しそうな顔をした。 「ほう、これはこれは。いい雄を見つめたようじゃの。マリィ」  男の口からマリィの名が飛び出たものだから、真は本能的に彼女の姿を探し始めた。きょろきょろと辺りを窺うと、男が座っていたソファの側にいて、不安げな顔を向けられている。真はマリィの姿を見つけてホット胸をなで下ろした後、すぐ側まで近づいた厳つい大男に向かい合う。 「あの、失礼ですが、あなたさまは……」  ドキドキと忙しなく脈打つ鼓動を感じながら、真は恐る恐る尋ねる。  すると、薄々感じていた返事が返ってきた。 「儂か? 儂はマリィの父親じゃ。これからは、ぬしの舅になるの」  ずる賢そうな笑みを向けられてしまい、真は目を大きく見開いたまま体を石にように硬くさせた。 「さて、これからどうするかじゃの。マリィと婿殿では、生きる世界が違うゆえ、知恵を絞らねばならぬ」  そう言ってマリィの父親は、ソファに座ったまま黙考し始めた。  真はマリィと並んで、向かいにある椅子に腰かけている。  マリィの父親から聞く話では、たまたま娘の様子が気になって水鏡に映したところ、余りにも思い詰めた表情をしていたという。それを見ていてもたってもいられなくなり、はるばる人間界へやってきたということだった。そして娘から全てを打ち明けられて、父親としては複雑な心境らしい。 『愛する娘が見込んだ雄じゃ。しかし、まさかその相手が人間だとは思わなんだ。ぬしも娘と同じように思っておるようじゃし、あとはこれからのことが解決できれば、問題はないと思う』  そう言って父王はひげを撫でていた。それで婿殿と呼ばれたのかと、今度は真が複雑な心境になる。  17世紀から伝わる魔術の書物では、アマイモンは四方を司る四大悪魔の一人で、東の魔王となっていた。彼の配下とされる東方の悪魔には、アスモデウス・ガープ・セーレなどがいると記されている。  もちろん、真はそういった知識はない。だが、マリィから東の国王の娘であることを聞かされていたし、何よりこの威厳だ。それまで真が感じたことがないほどの威厳は、部屋中の空気を重くさせた。 「婿殿は伴侶がどのようなものであるか御存じか?」 「えっ?」  重苦しい空気が立ちこめているせいで緊張していたところに、急に問いかけられた。真が顔をはっとさせて父王を見上げると、厳つい顔に不安が滲んでいた。 「は、伴侶。セーレから聞いた話だと、魂同士が固く結びついていて、片方が死ぬともう片方も死んでしまうと……」 「そうじゃ。もともとひとつのものであったものが分かれて雄と雌になったからの。それが有るべき姿になったからには、当然そうなる。で、そのほかには?」 「は?」  苦笑を浮かべた父王から促されたが、すぐには思い出せなかった。真はなんとしてでも思い出そうとして、記憶をたぐり寄せる。そしてようやく思い出せたものがあった。 「伴侶だけが、その、相手をイかせることができて、そうなることでマリィの場合は、魔力が増えると……」  緊張しているだけに頭が回らない。そのせいで、女性の絶頂をどう言い表していいか分からなかった。真は答え終えた後、父王の顔色を窺い出す。すると、その父王は、黒い瞳を大きくさせた。 「ほう、そこまで聞いておったか。ならば話は早い」 「えっ?」  感心しているような姿を見て、真は今度こそどうしたら良いか分からなくなった。すると、唖然としている真を眺めていた父王が、何かに気づいたらしく、真から目線を反らす。 「セーレ、入れ。そこにおるんじゃろ?」  父王の視線をたどり振り返ると、部屋の引き戸がゆっくりと開いた。 「我が王、やはりおいででしたか。気配を感じたので、様子を窺っておりました。どうか、御容赦を」  そう言ってセーレは恭しく跪いた。その後ろにはリーシャがいて、セーレと同じように跪いている。 「セーレよ。おぬしの意見を聞こう。何か考えが合ったから、マリィがこうまで悩んでいても、何もせずにおっただろうし」  このとき、真は隣で黙り込んでいるマリィに改めて目を向けた。彼女はずっと何かに耐えているようにじっとしていた。俯いていた顔をのぞき込むと、随分と思い詰めた表情をしていた。しかも、泣きはらしたあとが頬に残っている。ふっくらとした唇は硬く引き結ばれていて、小刻みに震えていた。それを見たとき、真はこれから何が起きるのか、この先どうなってしまうのか、それらを考えると不安でたまらなかった。
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