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第19話

 背中に手が回されたことに気がついたのは、マリィを抱きしめてすぐだった。  抱きしめた女の様子をみてみると、じっとしたまま動かない。  マリィは体に触れてほしくないようだった。いや、むしろ勝手に触れられることを嫌っている。  それなのに、今に限ってそうではなく、おとなしく抱きしめられているどころか自ら進んで抱きしめている。  それに、先ほどまでの会話を振り返ると、明らかに今までとは異なっていた。  いつもなら、何か言おうものなら、つっけんどんに返されるだけなのに、それがない。  これが二人の距離が縮まっているということならば、この一か月のあいだ確実にそうなっていたのだろう。  鼻をかすめる甘い匂いと、手に平から伝うしっとりとした肌の質感、全身で感じる柔らかな体。それら全てが心地良く、できることならずっとこうやって抱き合っていたいと思わされた。  しかし、真は後ろ髪を引かれる思いで、体をゆっくりと離す。すると、背中に回された腕が、引き留めようとするかのように、真の体を抱きしめてきた。 「ん?」  思わず真は声を上げた。 「……私も同じよ。いつまでもこうしてたい」  くぐもった声が耳に入った瞬間、ぎくりとなったことは言うまでもない。 「だから、勝手に心を読むなって……」  ふて腐れたように言ったのは、照れ隠しだった。少しばかり不機嫌そうにそう言うと、マリィが押しつけた頭を横に振る。 「違うわよ。流れ込んでくるの。あなたの心が。すごく温かくて良い気持ち」 「え?」 「あなたが私に心を開いているからよ。だから、流れ込んでくるの、あなたの心が」  そう言ってマリィは更に体をすり寄せてきた。甘えられることは嬉しいけれど、よくよく考えてみたら彼女は素っ裸に限りなく近い。だから当然真の指に触れているのは、なめらかな曲線を描く背中だった。指先からしっとりとした肌の感触が伝う。そのとき、悪戯心がむくむくと湧き上がり、真は指をかすかに動かした。 「ん……っ」  マリィが声を詰まらせながら、体を捩らせる。だが、真は背中から尻へと続くラインを指先でなぞった。腕の中でマリィはもぞもぞと体を動かしながら、猫のように背を反らす。自然と丸い尻を突き出す姿になっていた。 「ねえ……」  胸に頭を押しつけたマリィが、呟くような小さな声を出す。その声に怒りは感じなかったけれど、真は調子に乗りすぎてしまったことを少しばかり悔いた。だが、そんな気持ちが遙か彼方に吹っ飛んでいくくらい、驚くことが起きる。 「さっきみたいに抱いて……」 「へっ?」  真が素っ頓狂な声を上げると、それまで顔を胸に押しつけていたマリィが顔を上げた。目線を下げて彼女を見ると、頬が赤かった。まっすぐ向けられている黒い瞳は、わずかに潤んでいる。口紅など塗っていないのに、赤い唇から飛び出た言葉に真は驚いてしまう。  それまでは、現実世界ではマリィに抱かれ続けていた。体の自由を奪われて、一方的に責められた末に射精するだけの行為を、抱かれるといっていいものか悩むところだ。  ところが今は、その行為をしていた相手が「抱いて」と言っている。しかも先ほどのようにと、わざわざ言葉を足して。真は信じられないといった顔で、見上げるマリィの顔を凝視した。  すると、マリィが顔を近づけさせてきた。きれいな顔が眼前に迫ったかと思ったら、唇に柔らかいものが押しつけられる。マシュマロを思わせるような柔らかい唇だった。その唇が触れたと思ったら、すぐに離れていく。黒い瞳を伏し目がちにさせたマリィが顔をゆっくり離していった。 「さっきみたいに抱かれるの、初めてだったの……」  恥ずかしがるわけでもなく、むしろまっすぐな瞳でそう言われ、真としてはどう返したらいいか分からない。ただ、何かを期待しているような姿をされれば、それに応えたくなってしまう。それが多分、さっきのようなセックスだとしても。  先ほどと言うことは、マリィが見せた夢でのことだ。いつものように体の上に跨がっているマリィに悪戯を仕掛けたところ、かわいらしい反応を見せた。それに気をよくしてしまい、馬乗りになったマリィに覆いかぶさり、それから――。  ほっそりとした首筋に吸い付きながら腰を沈めると、切なげな吐息が聞こえてきた。覆いかぶさった体に、マリィの脚が絡みつき、背中に回された手が体をしっかり抱きしめる。これ以上ないほど肌をぴったり重ね合わせ、焦らしに焦らしたあと、彼女の中に精を放った。  射精し終えたあと、マリィの顔をのぞき込むと、うっとりとしていた。汗が浮かんだ額に、赤毛が幾筋か張り付いていた。上気したせいか、ほっそりとした頬はピンク色。濡れた唇から漏れるのは、熱が籠もった吐息だった。それを思い出した途端、いまだ赤毛が巻き付いているところがむずむずとし始めた。そのとき、マリィが顔をはっとさせる。  そして、マリィはゆっくり顔を近づけた。呆然としている真の唇をやんわりと塞ぎながら、ほっそりとした腕をそろそろと下ろす。彼女の手が伸びたのは、言うまでもなく真の股間だった。白い指先が、ズボン越しに何かを探るように動き出す。 「ん……っ」  声を漏らしたのは真だ。急に何かが触れてきたせいで、立ち上がりかけていた勃起が一気に堅さを増した。それと同時に、マリィに塞がれている唇を濡れたものが突き始める。ドアをノックするように突かれて、真は唇をわずかに開いた。すると小さな舌がするりと滑り込んできて、真はそれに舌を伸ばす。  すぐに舌を絡ませると、火照った肌に空気が触れた。それに気づいたときには着ていたはずのシャツとズボン、下着が全て消えていた。それとなくマリィの背中に添えていた手を下ろしてみると、彼女の腰に巻かれていたはずの装飾がなくなっている。  マリィが口付けをしながら、体を徐々に押しつけてきた。それに抗う理由もなかったし、それに今は無性にマリィを抱きたかった。マリィの悪戯な指先は、すっかり硬くなったものを刺激するようになぞっている。真は抗うこともせず、マリィを抱きしめながら、体を倒したのだった。
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