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第15話

 リーシャが部屋に戻ってきたのは、しばらく経ったあとだった。  彼女はレモネードが入ったデキャンターと、グラスを三つトレイに乗せて戻ってきた。そしていそいそと真とマリィにレモネードを注いだグラスを差し出して、自分の分をこくこくと飲み出した。 「ねえ、なんでレモネード持ってきたの?」  マリィがグラスに入ったレモネードを飲みながらリーシャに尋ねると、彼女はかわいらしい笑顔をマリィに向けた。 「マリィさまが真さまにお茶を出しても、飲んでもらえないだろうからって。それで持って行けと言われました」 「何よ、それ……」  マリィがきれいな顔をむっとさせ、忌ま忌ましげに呟いた。 「マンドラゴラとアルラウネのお酒を真さまに飲ませたとき、ちゃんと説明しなかったのが悪いとセーレさまはおっしゃってましたよ、マリィさま」 「だって仕方がないじゃない。チャームがきかなかった男なんて初めてなんだから!」 「それがあるから、未だに真さまはマリィさまをお信じになることができないとおっしゃってました……。それがあるから、セーレさまのことも私のことも良く思われていないのだと……」  リーシャから苦笑を向けられ、マリィは言葉を詰まらせた。  確かにリーシャの言う通りだ。といっても、彼らの言動すべてに対してそう思っているわけではない。真は、複雑な心境でそう思いながら二人の様子を眺めている。  セーレに関しては、地下の世界のことはもとより、マリィの行動をわかりやすく説明してくれる大事な存在だ。彼がいなかったならば、こうやっておとなしく店には来ていない。リーシャに関しては、接触する機会が滅多にないが、初めて顔を合わせたときから好意的に接してくれるから、悪くは思っていなかった。問題はマリィだ。  見た目だけなら目を奪われるきれいな女だが、その実尊大で常に上から目線なのが気に入らない。それにかわいげもない上に、気に入らないことがあればすぐに怒り出すという面倒くさい存在だった。だから真はコトが終わるまでおとなしく耐えていた。そうすれば、いつの間にか自宅のベッドにいるのだし。知らず知らずのうちにマリィを眺めていると、その彼女が急にすっくと立ち上がった。不満を隠そうともしない表情を浮かべて。 「あいつが言ったのよ。茶くらい出してやれって。だからわざわざコンビニに行って、買ってきたんじゃない! それなのに、なんなのよ!」 「マ、マリィさま、落ち着いてください、でないと……」 「これが落ち着いていられる? あいつ、私のことなんだと思ってんのよ! ああ、もうムカつく!」  リーシャとマリィの会話を聞いているうちに、真は思い出した。先ほどマリィが独り言のように呟いていた言葉を。 『だからといって、あいつを伴侶にしたくはないし。そんなことをしたら全てが台無しだわ……』  今マリィが口にした「あいつ」はセーレのことだ。だが、先ほど耳に入ってきた「あいつ」はセーレではないような気がした。マリィを淫魔にしたとき交わした盟約により、セーレは正式な伴侶ができるまでは彼女の後見として常に側にいなければならないという。だから、わざわざあのようなことを口にするわけがないし、毛嫌いしているかのように言うわけがない。なんといっても、セーレはマリィにとって兄にも等しい存在らしいから。  セーレはマリィの父である東を統べる王の片腕だという。絶対的な信頼を寄せられているからこそ、マリィの初めてを務めたろうし、人間界にだってついて来たのだと思う。マリィたち、地下の世界に住むものにとって人間界は、できればいたくない場所だから。人間界に留まれば留まるほどエネルギーを奪われてしまうし、常にそれを補わなければならなくなる。そのためだけに、自分は必要とされているだけなのだと改めて思ったら、なんだかやり切れない気持ちになってきた。真が一人やり切れない思いを持て余していると、マリィから恨みがましそうな目で睨みつけられていた。 「な、なんだよ……」  きれいな女が怒る姿は、なかなかの迫力がある。悪いことなど何一つしていないのに、ついつい怯んでしまっていた。真はそれを誤魔化そうとして、マリィをにらみ返す。しばらく無言のままにらみあっていると、側でおろおろとしていたリーシャが口を挟んできた。 「マ、マリィさま、真さま。お、お稽古、お願いします……」  するとそれまで睨んでいたマリィが、傍らにいたリーシャへと目を向けた。その表情は拗ねたようなものへと変わる。 「そ、そうね。時間ももったいないし……」 「真さまからエネルギーを補ってもらう時間も必要ですし。ね、マリィさま」  場を和ませるかのようにリーシャがにっこりと笑うと、マリィはセーレが作ったレモネードを飲み始めたのだった。 「じゃあ、始めましょうか。真、こっちに来て」  突然名を呼ばれ、真はどきりとする。今まで「のぞき魔」としか呼ばれたことがないからだった。  マリィは椅子の後ろに回り、そこに腰かけるように促してきた。真は言われたとおりに椅子に腰かける。  すると、きれいな体に装飾を巻き付けたリーシャが、真の足元にそろそろと跪いた。かわいい青い目で見上げられ、どきどきと忙しなく心臓が脈打つ。 「ちょっと、何興奮してんのよ」  明らかに不機嫌そうな声が背後から聞こえてきた。密かに興奮していることを指摘され、真は拗ねたような顔をする。 「したくてしているわけじゃない」 「あらそう。私のときとは大違いね」 「当たり前だ。体を動かなくさせてから、跨がってくるようなやつになんか興奮しないからな」 「仕方ないでしょ。だって、あなた、勝手に触ろうとするんだもの」  乳首に触れた後から、マリィは真に術を必ずかけるようになった。射精したあと朦朧としている無防備なところに術を掛けられて、気がつけば自宅のベッドの上にいる。それが、この一か月の間繰り返されているのだ。そうなることを分かっているのに店に向かうのは、男根に巻かれたマリィの髪のせいである。全部が全部自らが望んだものではないのに、そういう状況であってもマリィに勃起してしまうのは男の悲しい(さが)だ。マリィと真が言い合いをしているうちに、リーシャは様子を窺いながらズボンのベルトに手を伸ばしている。 「マリィさま、これを外してもよろしいでしょうか?」  両脚の間に跪き、ベルトに小さな手を掛けているリーシャを見たとき、体中の血液が一斉に股間に集まった。マリィの髪が巻き付けられているところが、急に熱を帯び疼き出す。それまで力なくだらりとしていたものが、むくむくと立ち上がり始めた。真は知らず知らずのうちに体をこわばらせる。 「いちいち脱がせなくてもいいのよ、リーシャ。でも、今日は特別。真にチャームをかけてみて、そうすれば真が好きなものが分かると思うから、その通りにしてみて」 「でも、真さまにはマリィさまのチャーム、ききませんでしたよね?」 「ああ、そういえばそうだったわ。仕方がないわねえ……」  面倒くさそうな声が背後から聞こえてきた直後、いきなり顎を掴まれた。そしてぐいっと持ち上げられたかと思ったらと、柔らかいものを唇に押しつけられてしまう。突然ぬるりとしたものが唇をこじ開けて、口の中にするりと入り込んできた。自分の身に今何が起きているのか分からず目を大きく見開くと、マリィの黒い瞳がすぐ目の前にまで迫っていた。
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