8 / 41

第8話

「でね、マンドラゴラを抜くときは手順通りにしないと危険なのよ。だって、抜いた人間は呪いを掛けられちゃうから、そのまま死んじゃうんだもの。しかも、魂はマンドラゴラによって繋がれちゃうから、天上にいくことができないってわけ」  頬を赤らめながら説明するマリィを、真はじいっと眺めていた。  マリィが酒を飲むたびに、甘やかな匂いが部屋に広がるだけでなくその濃さが増しているような気がする。真はそれを確かめようと、夢中になって話しているマリィに気づかれないように匂いを嗅いだ。やはり、気のせいなんかではない。  しかも、その甘い匂いに覚えがあるものだから、無意識のうちに体がこわばってしまう。この匂いがしたら、危険だ。昨夜だって、この匂いに気づいたあと、跨がったマリィに責められてしまい、情けないことにあっという間に射精してしまっていた。それで終わるかと思いきや、彼女のなかが(うごめ)き出し再び勃起。それから……。  それを思い出してしまい、真は内心で恐々となっていた。 「ねえ、聞いてる?」  向かいの席に座りながら一人で話していたはずのマリィから急に問われたものだから、真は顔をはっとさせる。アーモンド型の瞳を上目にさせて見つめる姿のせいで、不覚にもどきっとしてしまう。もともとがきれいな女だけに、媚びるような姿をされると、ついつい流されてしまいそうになる。  真は揺れ動く気持ちを引き締めた。  この女は人間ではない。男をたぶらかす魔物なのだと自分自身に言い聞かせて。 「あ、ああ。聞いてるよ。マンドラゴラを抜くときは手順通りにしないと死んでしまうんだろ?」 「そうそう。それでその手順っていうのはね、まずアルラウネを抜くことなんだけど、これを抜くのも手間暇が掛かるのよ。なんたって男の精液がないと駄目だから。しかも女と交わったことがない男の」  魔物にも性別があるのだろう。そして雄の魔物には、人間と同じように精液があるらしい。その精を手に入れたあと、どうやってその植物を採取するのだろうか。人間世界でそのような手順を踏んで手に入れる植物がないだけに興味が湧いた。真はマリィに話の続きを促した。 「へえ、童貞の精液ねえ。それをどんなふうに使うんだ?」 「アルラウネの花にかけてあげるの。そして、お前の(つが)いを見つけてあげるから力を貸してと諭すのよ」 「意外だな。力を貸せといって無理やり抜くなら、いかにも魔物って感じだけど」 「そんなことをしたら、アルラウネは自ら命を絶つわよ。それにその魔物っていう言い方やめてくれる?」  魔物という呼び方が癪に障ったようで、マリィは真をじろりとにらめ付けた。ふくれっ面のときや拗ねたときも睨まれたけれど、今向けられているまなざしの鋭さはその比ではない。射るようなまなざしを向けられてしまい、真はすぐさま謝った。こういうときは、とにもかくにも謝るに限る。もしも下手を打って怒らせでもしたら、何をされるかわかったものではないからだ。 「ご、ごめん。つい……」 「そりゃね、人間達が私たちをなんと呼ぼうが構わないわよ。実際、人間たちの欲望を利用して生きながらえているわけだし、それで魔物と言われても仕方がないとは思う。でもね、私たちの全員が全員悪巧みをして、人間を食い物にしているわけじゃないから」  セックスで三度も精を搾り取った女が何を言う。心の中でそう思いつつも、真面目な瞳をまっすぐ向けられてしまえば、もはや何も言えなくなる。この場をどうにか誤魔化そうとして、真はちびりと酒を飲んだ。すると、マリィが何に気づいたのか、黒い瞳を大きくさせる。 「ね、ね、それおいしい?」 「えっ?」  急に身を乗り出してきたものだから、真は驚いた。持っていたグラスを見ると、いつの間にか酒が減っている。ちびちびやっているうちに、無くなっていたらしい。  始めの頃は、どんなものか分からぬものを口にすることはためらわれた。しかし、なんだかんだ言いながら飲んでしまっている。それは、酒とは思えぬほど軽い飲み口だったせいだった。  ほんの少し含んだだけなのに、芳醇な香りが口いっぱいに広がった。舌触りもとろりとしている。果実の甘みに混じって、わずかだが酸味がきいていた。酒ならば一口飲んだだけでも体が熱くなるのに、これはそうならない。酒というより高級なフルーツジュースによく似ていたから、口寂しくなるとついつい飲んでしまっていた。 「これね、人間の世界にある果物を初めて使ったのよ。本当は地下の世界の果物を使いたかったらしいんだけど、今あっちに帰れないから、私たち……」  マリィの表情が曇ったのを真は見逃さなかった。  なぜ地下の世界に住むマリィがわざわざ人間の世界へ来たのか、その理由についてはまだ教えてもらっていない。それに帰れない事情があるようで、それが気になった。 「ところで、なぜ人間の世界(こっち)に来たのか、教えてくれないか? どうも事情があるようだが……」  顔色を窺いながらマリィに尋ねようとしたとき、異変は起きた。急に視界が歪んだかと思ったら、体の芯がじわじわと火照り始め、息苦しくなり始めた。思うように体が動かない。とっさにマリィに目を向けると、彼女はほくそ笑みながら持っていたグラスをテーブルに置いて、ゆっくりと立ち上がった。 「やっと、効いてきたわね」 「え……?」 「なかなか効かないから、これも駄目かと思って諦めかけたけど、効いてくれて嬉しいわ」 「ど、毒は、入ってないって、言ってたよな?」 「毒は入ってないわよ。これは本当、嘘じゃない。でもね、このお酒って、飲み慣れないものには媚薬になるの。催淫剤って言った方が良いかしら」 「なん、だ、それ……」 「だって、どういうわけか、あなたには私のチャームが効かないようだし、ならば媚薬を使った方が手っ取り早いと思って」  マリィがしれっとした顔で言い放つ。 「さあ、今夜も気持ち良くしてあげるわ。だから、いっぱい頂戴、のぞき魔さん」  そう言ってマリィは真に向かい蠱惑的な笑みを浮かべた。  するとその直後、それまで身につけていた服が瞬時に消えてしまい、真は素っ裸になってしまう。  全身が熱い。肌はうっすら上気し、汗でしっとりと濡れている。それに、股間のものがしっかり硬くなってきた。一気にそこへ集められた血液が、内側からそれを膨らませ、しっかりと立ち上がらせる。みるみるうちに亀頭のくびれが出来上がり、どくどくと脈打つ血管が薄い皮膚に浮き上がっている。しっかりと立ち上がった逸物を見て、マリィはほくそ笑みながら腰まである長い黒髪を手で払った。  すると一瞬のうちに、彼女の姿が変化する。それまで濡れたような艶を放っていた黒髪が、目にも鮮やかな赤い髪に。着ていた白いシャツと黒いパンツが、まるで砂のように消え去り、美しい肢体があらわになった。  華奢な肩から続くラインは女性らしく柔らかい。形の良い豊かな乳房は張りがあり、その(いただき)にある小粒な木の実はうっすら赤くなっていた。くびれた腰から続く尻は肉付きが良く、むっちりとした腿の下に伸びている脛はほっそりとしていた。その両脚の付け根には茂みがない。ほどよく引き締まった腹の下へ目を下ろすと、ふっくらとした丘があるのみだった。そこに入っている縦のラインのその奥を、真は知っている。  昨夜、夢の中でマリィは馬乗りになったまま、いきなり両脚を大きく開いた。そして、何を思ったのかそこを指で開き、赤サンゴのようにふっくら膨らんだ淫芽をあらわにさせた。そして今度は細い指を滑らせて、蜜口を覆い隠していた花弁を迷うことなく開いたのだった。  体内からしみ出す淫蜜が、ぬらぬらとした光沢を放ちながら、赤く色づいた花びらを濡らしていた。その光景を目の当たりにしたとき、今部屋を満たしている甘い匂いがし始めた。そしてその後、マリィはいきり立った勃起を手に持ち、自らの肉体に迎え入れたのだ。  真は麗しい肢体を前に、無意識のうちに喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。  目の前にある女を抱きたい欲求が、体の奥深いところから突如としてわき上がってくる。  だが、昨夜の出来事を思い返せば苦々しい気持ちになってしまう。  しかし、今まで味わったことがないほどの快感と恍惚は忘れようと思っても忘れられるはずがない。  真は全裸になったマリィを見ながら、期待とともに興奮を覚えずにはいられなかった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!