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第5話

 労務管理課は、職員管理が主な業務である。  真が働いている会社は、一流企業とはいえないまでも、そこそこ大きな企業である。日本国内外で働く職員に関わる管理を、本社の労務管理課で一括して行っている。その為、届いた書類を担当者がチェックし終えたら、課長である真が取りまとめ、総務部長のもとへ届けることになっていた。そして、総務部長が承認したら、人事データへ登録することになっている。  昨日悠木から届いた書類は、問題なく承認された。そして今、真は届け出に書かれている内容をデータバンクに登録している。入力自体はさほど難しいものではないのに、小難しい顔をしているのは思いがけない夢のせいだった。  夜更けに自宅へ戻ったあと、シャワーを浴びてすぐに休んだ。胸につかえていたものの幾分かを吐き出したあとだけに、うとうととする間もなく眠りについたのだ。いつもなら、夢など見ることもなく朝を迎えるのに、昨夜に限って夢を見た。  夢の中で起きた出来事を振り返ると、自然と気分が滅入ってくる。  あれでは、まるで無理やり犯されたようなものだ。しかも、あの女に。  できることなら、夢だということにしてやり過ごしてしまいたい。  だが、それができない事情がある以上、あの店へ行かなければならなかった。  真は忌ま忌ましげな顔でパソコン画面をにらみ付けたあと、ため息を漏らしてしまう。  吸い込まれるように意識が落ちてから、しばらく経った頃だった。  いきなり腰に重みがかかったと思ったら、急に体が動かなくなってしまった。その上、両手を何かできつく縛られたようで、その痛みで目を開いた。そのとき、目の前にあったものに驚きを隠せず、真は大きく目を見開いてしまう。  視線の先にはあの女がいた。生まれたままの姿で、腰に跨っていた。  真は驚きの余りぼう然となってしまう。  夢だと思っていた女が突如目の前に現れたのだ。驚くのも無理はない。  瞬きするのも忘れて見入っていると、赤毛の女は嬉しそうにほほ笑んだ。 『やっと会えたわね。昨日はどうも』  とろりとした蜂蜜を思わせるような声で挨拶されたとき、真は呼吸するのを忘れてしまった。  向けられた笑みが、何も考えられなくなってしまうほど美しかったから。  美しいものには、力があるに違いない。何も口にできなくさせてしまう力が。  現に真は、艶然とした笑みに魅了されたかのように黙り込んでいる。  すると、急に女が表情を一変させた。 『ちょっと。私の話聞いてる?』  不機嫌そうな声が耳に入り、真は現実に引き戻された。  両手を頭上で縛られたまま女を見ると、険しい顔で自分をにらみ付けている。  その姿を見たとき、真はあることに気がついた。  長い髪をしどけなく下ろした姿は、あの夜目にしたものと同じはずなのに、何かが違っていた。  それが何であるか分からず、真は腰に跨がる赤毛の女をジロジロと見始める。  鮮やかなオレンジ色と赤が混じった色した長い髪は、緩やかに波打っている。透けるように白い肌は、あの夜薄紅(うすくれない)に染まっていた。華奢な肩に掛かっていた赤毛が、肌の白さを際立たせているかに見える。豊かな乳房、くびれた腰、そして肉付きのよい尻から伸びる腿はむっちりとしていた。ミルク色の肌はきめが細かくなめらかな上に、しっとりとした艶を放っている。  それに向けられている顔も美しかった。あどけなさを残しているが、ほっそりとした美人顔。あの夜、絶えず吐息を漏らしていた唇は、ふっくらとしていて柔らかそうだった。だが、明らかにあの夜とは違う。だが、それがなんであるか分からず、真は困惑してしまう。  そんな真の様子を、女は観察でもするように眺めていた。だが、何かに気がついたらしく、真の視線をたどって、自分のからだを見下ろした。そしてもう一度真を見たあと、満足げな顔をする。 『ふぅん。あなた、この姿が好きなの?』 「えっ?」 『そっか。こういうのが好きなのね。嬉しいわ』  真の目の前で、女はその形を確かめるように乳房や腰を撫で始めた。  その光景は、実に奇妙なものだった。  ただでさえ、真は今の自分の状況に困惑している。それに、突然現れた女の容姿があの夜と異なっていた。その上、目の前では赤毛の女が奇妙な言動をするものだから、何が何だか分からなくなって当たり前だ。幾らまた会えたらいいと望んでいても、こんな形で再会を果たすことになるとは思わなかった。  ああ、そうか。これは夢だ。現にさっき眠りについたばかりだし、これは夢に違いない。そして、目の前にいる女は、やはり夢で見た女なのだ。そう思い直した途端、腹が据わってきた。気を取り直したあと、真は女をじっと見始めた。その視線に気がついたのか、女は気まずそうな顔をする。 『な、何よ。そんな目で見ないでよ』 「そんな目?」 『そうよ。あなたが夢を見てくれたから、わざわざ会いに来てあげたのに、なんなのよ、全く……』  赤い唇を尖らせながら、拗ねた顔する女を見ながら、真はため息を吐き出した。  女のセリフに違和感を抱いたが、なにせここは夢である。  多少引っ掛かることがあっても、夢だと思えば気にならない。  だが、わざわざ会いに来たという言葉が気に入らない。  しかも両手を縛り上げられている状況だ。沸々と怒りがこみ上げてくる。 「会いに来てあげただと? 意味が分からん! それに、これをどうにかしろ!」  勢いよく言い放ちながら、縛り上げられた両手を突き出すと、女がたじろいだ。その隙を逃すまいと、真は更にまくし立てようとした、そのときだった。急に女が覆いかぶさってきたせいで、胸に柔らかな乳房が押し付けられる。そして、きれいな顔が眼前に迫ってきた。 『私の目を見て』  長いまつげに縁取られたまぶたの奥にある黒い瞳は、真剣なものだった。その目を見つめていると、徐々に色が変化し始めた。黒かった瞳が少しずつ明るい色になり、やがて金色になった。それを見たとたん、体が石のように動かなくなっただけでなく、言葉も出なくなっていた。声も出せず体も動かせないまま女を見ると、ずる賢い笑みを向けられていた。 『今日は会いに来ただけだったけれど、来たついでにつまみ食いしちゃおうかしら』  そう言って、女は赤い舌で唇をペロリと舐めた。  昼休憩を告げるチャイムが耳に入り、真は現実へ引き戻された。  夢で起きた出来事を振り返っている間に、かなり時間が経っていたらしい。慌ててデータを入力し終え、席から立ち上がろうとしたとき、股間に鋭い痛みが走った。真は顔を歪ませる。  一方的に犯されて言葉通り精も根も搾り取られたあと、女は自分の髪の毛を一房切った。  そして、それを男根の根元に器用に巻き付けた。  すると不思議なことに、巻き付けたものが根元をきゅうきゅうと締め上げてきた。 『これであなたは、私のもの。私以外の女と体を交えることはできない』  そのとき女が見せた笑みが脳裏をよぎり、無意識のうちに手でそこを押さえ付けていた。聞かされた話によれば、彼女とセックスするとき以外で勃起したら、容赦なく根元を締め上げるらしい。そして、そのあと告げられた言葉を思い返すと、ため息しか出てこなかった。 『もし、強引にそれを切ろうとしたら、もげるわよ、あなたのそれ。外してもらいたかったら、明日の夜、店に来て頂戴。じゃあね』  別に彼女以外の女とセックスする予定はないけれど、股間の自由は守りたい。  しかし、あの女の顔など見たくないし、できることなら関わりたくない。  だが、行くしかあるまい。そして縛めを解いてもらわなければ。  男としての自由を取り戻すことができたなら、あの女に用はない。  そう思い直したあと、真は席から離れたのだった。
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