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第1話

 酔いが覚めたと同時に、目がさめた。  (しん)はぼうっとしたまま、まぶたを開く。  すると、少し離れた先にバーカウンターが見えた。天井からつり下げられた照明に照らされたカウンターの席には誰もいない。いや、席だけではなく、その奥にも誰もいなかった。  真は、怪訝な目つきできょろきょろと辺りを見始めた。暗い店内に目が慣れてきたのか、それまでぼやけていたものがはっきりし始める。そして部屋を満たしている甘やかな匂いに気がついた。  これだ。この匂いに誘われて、見知らぬ路地にたどり着いたところまでは覚えている。だが、それ以降の記憶がない。どうやら、酔いに任せて見知らぬ店に来てしまったらしい。真は、諦めとも開き直りともとれるため息をつきながら、腰かけていたソファに体をもたせかけた。そのとき、話し声が耳に入る。  それに気がつき、耳を澄ましてみると、かすかではあるが人の声がした。真は息を詰めながら、そろそろと静かに立ち上がる。酒のせいか、足元がおぼつかない。話し声を頼りに足をすすめてみると、カウンターの脇に人一人分ほど通れるほどの通路があった。その先は暗くて見えない。だが、誰かがいるような気がする。  何も考えないまま薄暗がりを歩き出すと、視線の先に光の筋が見えた。そこを目指し歩いていると、かすかだった声がはっきり聞こえるようになってきた。女の声だ。しかも話し声ではない、艶めいた嬌声だった。  一歩、また一歩と足をすすめるうちに、やがて乱れた息づかいさえもはっきり聞こえるようになってきた。心臓がどくどくと脈打ち、息苦しくなってくる。店内は涼しいはずなのに、女の息遣いと喘ぎを耳にした途端、体の芯が熱くなりじわりと汗が噴き出した。真は緊迫した表情で、たまったつばをゴクリと飲み干す。逞しい喉仏が上下した。  そして、ついにそこへたどり着いた。わずかに開いたところから光が差している。そこへ恐る恐る顔を近づけて、部屋の中を覗いた瞬間、真は驚きの余り固まってしまう。  視線の先には赤い髪の女がいて、肉感的な体を惜しげもなく晒していた。  腰をくねくねと波打つように動かし、髪を振り乱しながら喘いでいる。  その動きにあわせて、豊かな乳房がたゆんたゆんと揺れていた。  肉感的な唇からは、絶えず喘ぎが漏れている。あどけなさを残す顔に、恍惚とした表情を浮かべているさまはとても淫らだった。しとどに濡れた肌に、燃えるような赤い髪が幾筋か張り付いている。全身を赤くさせながら、快感に打ち震えている姿は、この世のものとは思えぬほど美しかった。  女の姿に見入っていると、真はあることに気がついた。見間違いかと思ったけれど、彼女は確かに淡い光に包まれている。いや、包まれているのではなく、彼女自身が光を発しているようだった。神々しささえ感じる女の痴態から目を離せず、真は呼吸をするのも忘れて見入ってしまう。  すると、急に女が美しい(かんばせ)を向けてきた。自然と目が合ってしまい、真はとっさに逃げようとした。だが、あるものを目にしてしまい、驚きの余り立ち止まる。  真が驚いたのも仕方がない。向けられた瞳が金色だったからだった。わずかに眇められたその瞳を見たとき、心臓を鷲づかみにされたような痛みが走った。それだけでなく、股間のものが突然いきり立ったのだ。  いつもなら、と言ってもここ数年はそういうこともないけれど、じわじわと内側から張り詰めるような感覚なのに、今に限って一気に硬くなった。そんな変化に戸惑いながらも、真は目の前にいる赤髪の女から目を離せなかった。  すると、急に女がわなないた。桜色の体をブルブルと小刻みに震わせて、切なげに顔を歪めたと思ったら、赤い唇から声にならない声を漏らす。そしてすぐに、体をのけぞらした。細い腰に男のものと思われる手が添えられた。そして、深く突き上げられてしまったらしく、彼女の体が上下に大きく揺れる。その間あられもない声がだらしなく開いた唇から漏れていた。  真は溜まらず股間のものに手を伸ばす。ズボンの上からでもはっきりわかるほど、それは硬くそそり立っていた。玉袋がせり上がってきて、根元がこわばってきた。せかされるようにファスナーを引き下ろし、猛々しくそそり立つ逸物をしごき出す。そこから痺れるような快感がじわじわとこみ上げてきた。女は体勢を持ち直したようで、美しい顔を真へと向けている。  金色の目がどんどん潤みだし、目元から溢れた透明なしずくが上気した頬を濡らす。  それを見たとき、ぞくぞくとしたものが背筋を一気に駆け上がった。  すっかり膨らんだ先端から、透明な体液がにじみ出た。それが潤滑剤となり、ぬちゃぬちゃと音を立てながら無我夢中で扱いているうちに尻がこわばってきた。体の内側から何かがあふれ出そうで出ない焦れったさを感じ、真は扱く手の動きを速くする。じわじわと快感がせり上がってきた。  来る。そう思った直後、真は射精した。すっかり膨らんだ先端を手で包み込むと、勢いよくびゅくびゅくと白濁が手のひらに降りかかる。吐き出した精の青臭い匂いが鼻を掠めた。  だが、真は絶頂を迎えそうな女の痴態から目を離せない。食い入るように髪を振り乱しながら喘ぐ女を見つめていると、ひときわ甲高い声を上げながら、体を激しくのけぞらした。 「セーレ、もう、無理っ!!」  今にも泣きそうな顔で、女は訴えた。すると大きな手が、突き出された乳房をぎゅっと掴む。無骨な指と指の間から、白い柔肉が盛り上がった。 「いっ!!」  体を反らした女が、顔を苦しそうに歪める。思わず、真も顔を歪めてしまった。 「マリィ、まだだ。もう少し耐えろ」  酷く冷静な声がして、真は顔をはっとさせる。これほど女を喘がせているというのに、それでも冷静で居られるとは、まさかサディストではあるまいか。そんな考えが頭に浮かぶ。どんな男が彼女を喘がせているのか気になり、真はわずかに開いている引き戸をそっと開いた、そのとき。 「いやっ! イくっ! 無理っ! もう、無理ぃ……」  絶叫にも似た声がして、真は再び女に目を向けた。すると、それまでぼんやりと光っていた彼女の体が、ひときわ強い光を発し始める。やがて光に溶けてしまったかのように、彼女の姿は全く見えなくなってしまった。 「あああああああああっ!!」  感極まったような声はすれど、その艶めいた姿は見えなかった。  いくら目を凝らしてみても、ただまぶしい光だけしか見えない。  そして、どこからともなく甘い香りが漂い始めた。  その香りは店にやって来たきっかけとなったものだった。  甘い香りが鼻をかすめた瞬間、真の意識は急速に遠のいていった。
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