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ノスタルジック・ユイヒ(昆虫採取) ⑦

「ねえ この本はやっぱり君にはあげない いつか取りに行くから、それまで君が預かってくれない?」 「えっ……」  そもそもユカリは恵風は双子のカタワレであると知っていたのか、成りすましをしていた俺には確かめようがない。 それでもユカリから離れるまでは、俺は恵風に成り切っていなければならない。 ユカリは俺が恵風じゃない事に勘付いて、考えを変えたのだろうか。 それでも 俺が恵風じゃなくても 彼はその本を離したいのか…… そんな事が頭の中を回り、更にユカリが持ってきたその立派な本を”もらって欲しい”も”預かってくれ”もどちらも困った話だ。 “そんな事出来ない、母さんに叱られる”そう言って断ろうか、どう返事をすれば良いのかと迷い、視線が自分の手や足元で泳ぎ出す。  俺が黙っているとユカリは俺のおかっぱの頭を触り出して来た。 当時の俺は母親の趣味で恵風とそっくり同じではなかったが、”おかっぱ男子”だった。 その髪型が恵風と俺の見分けを一番難しくさせていた要因だという事は、その頃の俺にはもう分かっていた。 「意外に似合ってるよね コレでしょ?」 「今じゃムリだけどね……クスッ」 「バカヤロウ! 俺は”かわいい”から出来ているんだ!」 『・・・・・』 「チッ… フシアナめ……」  さっきから風に靡いて顔に邪魔に掛かる髪の毛を、彼は撫でるように耳に掛けてくれていた。もちろん年端も行かぬヤローにそんな事をされるのは初めてだ! 『・・・・・』  俺は”今、自分は恵風”という事も忘れ、ビックリしてユカリの顔をただ見つめた。 さっきの返事もまだしてない 返事どころか、それどころではなくなった。 俺を触っていたユカリの手が止まり……           《 C H U 》 『・・・・・・・』 「ね… ねえ……結日?」 「ナンだヤキモチか?」(プッ) 「って言うかユイヒ……」 「俺ならご覧の通り大丈夫だぞ? まだ何にも染まっていない純白の美少…」 「と言うかユイヒあのな……」 「ナンだ三人して羨ましいってか? はっはっはっ…俺にもあった”アマズッパイ思い出”ってヤツが ……しかし残念なのは、当時の俺は全く目覚めていなかった、むしろ大人の世界はまだ遠かったという事だ」 「その……”ユカリの本”はどうしたの?」 「ああ……待ってろ今持って来るから」 『 !! 』 「ヤバイぞ藤井ソイツはユイヒをエッちゃんだと勘違いしたままだ」 「う……うん……そこだよね」 「で、ソイツは今どこにいるんだろう……俺たちのイッコ上……という事は……」 「全然分かんないよオータくん……市内にいるんだったらどこかで会ってしまう可能性が……」 『 否めない! 』 「あったぞ あった 見ろよコレだ」 『 ゆ い ひ !! 』 「ナンだよテメーら揃って……自分にはなかった美しい思い出だからって、八つ当たりは見苦しいぞ」 「って言うかね、そのユカリってヤツは今どこにいるのか知ってる?」 「そう……”自分の家”って俺はテッキリ地方にでも行くのかと思ってた」 『ウンウン』 「住所までは知らねーが……」 『…………』 「………………こう……注目されると、照れるな……ブフッ」 「イーから早く答えて結日!!」 「……ったく、セッカチなヤローめ…… ユカリはなんと市内にいるようだ ……行ってる高校までは知らんがな……市内の高校に通学中なら、いつか顔を合わせる事があるかもな いつだったか、駅でヤツを見掛けた事があった 人違いじゃねえ……アレはユカリだ…… 見た事がある顔なのに思い出せない……アッと思い出したんだ ただ残念だったのは、ヤツは俺に気付かなかったって事だ ま…ムリもない 俺はもう逆立ちしたって恵風にはなれないからな… プッ」 『 ゆいひーーっ!! 』
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