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嵐の夜

終電後。 嵐なんて嫌いだわ。 駅の出口ぎわで、アンバーはうんざりとため息をついた。雨風にあおられて、きっとひどい姿になっている。 タクシーで帰ってもいいけど、これだけ濡れてしまっては…かえって迷惑だろうか。 近くにあの弟の部屋があったはずだから、連絡をして泊めてもらう?ううん、着替えを借りるだけなら…。 思い出す面影は、こどもの頃。それに、一年近く前の記憶。 ためらう。二人きりで会う?あの子の部屋に? 意識的に会わないようにして、もう一年は経っているのに。 「お困りですか、お嬢さん」 差しかけられた傘。目の前には、金髪の青年。 知らない人なら良かったのに、それは間違いなく私の弟、ジェムだった。 間違いなく美形の部類に入るとは思う。 私たちはふたりとも、目立つよく似た容姿をしているから。 「なんで来たのよ」 「実家の執事頭からからこっちに連絡あったよ、近くだろうから迎えに行ってくれって。雨ひどくて車出せないんだって」 そういう彼の足元も、水びたしでひどいもの。 ──こどもじゃあるまいし、GPSで居所を探られるのに、いい気はしない。 「でもまぁ、助かったことにしておくわ」 「素直じゃないね、ほら、カバン寄越しなよ」 「これくらい持てるわよ」 じゃぶじゃぶとふたりで並んで歩く。 時折、無理やり走っていく車が横を通っていく。派手に上がる水はねをジェムがかばってくれる。 昔は、長靴で歩いてた。 今は、ヒールとスニーカー。どっちにしても、濡れてひどいことになってるのは変わらないけれど。 セキュリティの面で、ジェムの一人暮らしが許可されたのはいわゆるデザイナーズの高級マンションにあたる物件。 監視カメラの前を通る時、少しだけ後ろめたさを感じたけれど、別に私が悪いわけじゃないと思い直した。 (弟の部屋を家族が訪ねるのは、おかしいことじゃないもの) 共有の廊下をべたべたに濡らして歩いて、黒いドアのひとつの前で止まる。 表札はない。キーの開く音。 ドアの向こうには、案外片付けられた、というよりも、あまり物がない玄関。 目を引くものといえば、ヘルメットがひとつ置かれているくらい。 タオルをひとつ寄越してくれながら、ジェムも手荒く自分の髪や体を拭いていく。 「バスルームはそっち。着替えもタオルも適当に使っていいよ。…お気に入りのシャンプーじゃないからって拗ねるなよ」 「ありがとう。借りる立場で文句なんて言わないわよ」 どっちみちこの格好のままではいられなくて、バスルームを借りることにした。 「うわ、気が利いてるわね…」 バスタブには、温かなお湯が張られていた。帰宅時間を見越して予約でもしてあったのだろう。 (気が回りすぎるのよ、もう…) 冷えた体にはとても嬉しいけれど、甘やかされていると感じるのは穿ちすぎだろうか。 使い慣れない男性向けのバス用品。 ミントとシトラスの香るシャンプーとボディソープは、いつもの私の香りを変えてゆく。 ランドリーから借りたのは、ぶかぶかのシャツ。それに、スウェットパンツ。 紐で無理やり腰を縛って、それでも足を捲らないと履けなかった。 (昔は、私の方が背が高かったのよ…) いつの間にか見下ろされる高さに変わり、繋ぐ手も大きくかたくなってしまって。 あんなにかわいかった弟は、今ではすっかり凛々しく綺麗な男の子だ。 (変わってしまったのは、私も同じだけれど) 横目で覗く鏡のなかに映るのは、細身ながらも子供の頃よりはあちこちに曲線を増した姿。 顔だってあの頃よりは変わっている。変わらないのは、長く伸ばした金髪くらいのものかしら。 「お先にありがとう、あなたも入るんでしょ?」 「うん、適当にくつろいでて。ココアでも飲んでてよ」 テーブルに温かなカップがあって、ソファの上にはひざ掛け程度のブランケットまで用意されていた。 「あ」 すれ違いざま、ふと気づいたようにジェムはこちらを見てきた。 「なによ」 「いや、下は履いてるのかなって」 「…なっ、なんてこと聞くの!!」 真っ赤になって答えると、ジェムは吹き出して笑った。 「ごめんごめん、全身濡れねずみだったもんね。…買いに行った方がいい?」 首をかしげてのぞき込んでくる。からかう意図はともかくとして、その言葉はあくまで気づかいなのだろう。 「…いいわよ。彼女の下着も、そうやって買いに行くのかしら?マメな男ね」 恥ずかしさをごまかすのに口をついたセリフに、ジェムがため息をつく。 「ざーんねん。彼女でもいれば、もう少し華やかな青春できるんだけどね」 笑って顔を上げる弟の耳に、並んだピアスが3つ。 「いつの間にピアスなんて…」 「一人になってから。まぁ…もしかしたら、もうひとつ開けることになるかもね。今度は逆にしておこうかな」 ジェムが首の後ろに手を当てると、視界からピアスが隠されてしまった。 「まぁ、とりあえず僕もあったまってくるよ」 バスルームに消えていくのを横目で追って、ソファの足元に座った。 両手のなかには大きめのカップ。 普段使ってる自分のカップより、一回りも大きい。たっぷりと用意されたココアに、口をつける。 「あったかい…」 お湯で温まったと言っても、早めに上がった体の芯はまだ冷えていたのだろうか。ココアでお腹の温まる感覚が、心地いい。 濡れた服を借りたハンガーにかける。 「とてもじゃないけど、今すぐ着るのは無理ね…」 できれば、早く帰りたかった。 ここでくつろぐなんて、多分自分には無理だと思う。 壁にかけられた、バイク用のジャケット。 ブラウンとモノトーンで揃えられた部屋。 どこもかしこも、自分の居場所なんてないのだから。 ブランケットを肩にかけて、膝を抱えた。 ──そんなことよりも。 思い出してしまうのは、過去のこと。 18になって、ジェムは家を離れて一人暮らしをはじめた。それが一年前のことだ。 16の頃から、ジェムとアンバーは、3回だけ、過ちを犯した。 最初は、好奇心。 キスだけのつもりだったのに、お互い止められない雰囲気に飲まれて。 2度目は、ジェムに熱心に口説かれて。 お願いを聞いてしまったのは、優しい気持ちからじゃなかった。相手への好意を明確に自覚したのは、1度目のことがあってから。 家族へ向ける気持ちというには、あまりに身を焼かれるような熱さにふたりで溺れて、息苦しいほど恋をした。 3度目は、それを区切りと心に決めて。 もしかしたら、私たちの何かを察したのだろうか。父は、ジェムにも私にも、そろそろ今後の将来を見据えることを望んだ。 …この関係を続けることは、もう許されないと切り出したのは私からだ。 それから、ジェムと二人になるのを避けるようになったのも。 年齢的にも、そろそろ将来の相手をと見合いをセッティングされることもあったが、結局は違和感しかなく終わるばかり。 例えば椅子の引き方、例えば好みの贈り物、例えば出かける時の行き先。 …ジェムの気づかいとは、どれも違いすぎる。 仕方のないことと思いながら、二十歳を前にして既に、アンバーは生涯独身の意志を固めつつあった。 カチャ、と軽い音。 ドアノブが動く音に、ビクンと顔をはねあげる。 「ごめんね、待たせて。…どうする、もう寝るならベッド貸すけど」 髪を拭いながら出てくるジェムの、シャツを羽織っただけのはだけた肌は、思ったより刺激が強い。 「ま、前っ、閉めてちょうだい。レディーの前よ!」 「ああ、…別に、姉弟だし?」 (いつの間に…しっかり、男の人の体になってる) 「それに、知らないわけじゃないでしょ、触ったことだって何度も…」 「言わないで。…あれは、間違いで…」 冷蔵庫からボトルを取り出そうとしたジェームズが、ふと、動きを止めた。 「…まだ、そんな風に思ってるんだ?」 顔を上げたヘイゼルの瞳は、呆れたような視線。手元で栓を開けた小ぶりのビールの瓶に口をつける。 「君が避けるから僕は家を出たけど、別に諦めたつもりも間違ったつもりもなかったんだけど?」 「ちょっと!アルコール…」 「ソーダみたいなもんだよ、いちいち気にするなぁ、お姉ちゃんは」 「っ…」 こちらの反応を面白がるような目が、見据えてくる。 「そんなに僕が気になるの?」 言葉遊びのように、追い込まれる。 「気になってなんか…会うのだって久しぶりでしょ、今日だって別に…」 来たかったわけじゃ、と続けようとする私の髪を、すくい取ってくちづけるジェームズの、距離が、近い。 「気にしてよ。…僕は、アンバーが気になって仕方ないのに。これじゃ、フェアじゃないと思わない?」 笑みの形の唇と、笑っていないヘイゼルの瞳と。 「髪、前より伸びたね。似合ってる」 そっと髪を指で梳かれる。 (分からない…) どこまでが家族として許されるのか、どこからが、家族のスキンシップの枠を越えてしまうのか。 「久しぶりに会えて、うれしい。ね、弟にキスはしてくれないの?」 自分とよく似た色の目が合う。 指を伸ばして頬に触れて、背伸びをして、私は弟の唇にキスをした。 *** 確かめるように、ゆっくりと手のひらで体をなぞられる。 弾むような優しい感触で、唇だけでなく、頬にも額にも、ぬるい雨のようにキスを受けながら、…これはまだ、家族のキスかしらと考えた。 「ちょっと、ねぇ…」 鼻先で髪を避けて、耳へのキス。やわらかく唇で食まれたところで、たまらずに声をかけた。 「あぁ…アンバーだ…」 ため息のようにジェムが声を零して、肩に額を伏せられた。そのまま、首元に顔を擦りつけてくる。…まるで、よくしつけられた大型犬に甘えられてるみたい。 「ジェム…?」 「アンバー…好き…」 声の調子は子供の頃を思わせる響きなのに、その声は低くなって、その分手足も背もぐっと伸びた。──これ…男の人の、体。 包まれるように抱きすくめられる。 (…逃げ場、ない、かも) 「アンバー、もっとキスしたい。いい?」 ジェムは、私の同意なしには何もしない。その代わり、こうして追い詰めてくる。 「ダメって言ったら?」 「我慢するよ、君が好きだから。…でも、ちょっとしんどいかな。久々すぎてヤバいかも…えっと、一年ぶり?」 腰に回った腕に力がこもって、ジェムの腰が擦りつけられる。 (うそ、当たってる…) 「…しないわよ、もうしないって言ったでしょ」 「うん。だから、キスだけ…」 ね?と甘えてくるのは、ずるいと思うのだ。ジェムは、アンバーが結局は弟に甘いことを知り尽くしている。 「キスだけよ。いいわね?」 「…キスしかしないから、逃げないで」 そんなに切なそうな眼をしないでほしい。ほだされてしまいそうになる。 「アンバー…好きだよ」 「私も好きよ、ジェム」 嬉しそう目を細めたジェムが、そっと唇で触れてくる。 (それは、家族として?それとも恋しい人として?) そんな問いを、お互い笑顔のしたに飲み込んでいる。 暴くにはまだ早い、暴いたら触れ合えない。 まぶたに、頬に、掠めるように唇に。やさしいキスは、アンバーの硬さをほぐしてしまう。 舌でそろりと舐められて、促されるように口を開いた。 体を重ねたのは3回だけ。 でも、重ねたキスの数はもう、覚えていないほど。…一年ぶりでも、忘れないものだ。 「ん、…っ…」 絡まる。指と、息と、舌。 確かに感じる快感が、ぞくっと背筋を駆け上がる。 「アンバー…好き…」 甘い声。なぞる手のひら。また、腰を押しつけられる。 「ぁ、…ん、も…」 そろそろやめて欲しいと肩を押すと、一度離れた唇が、今度は首すじに落ちる。 「ダメよ、ジェム」 「…これもキスだよ、いいって言った」 舐められて、時折食まれて、耳の下辺りを軽く吸われて…肩を押す手から力が抜けた。 また、唇を噛み合わされる。 水音にクラクラする。 「ジェム…お願い、ねぇ…」 「キス、だから」 荒くなる息の下からそう頼むのに、その舌を絡めとられて、飽きもせず貪られた。 (なんでこんなに、気持ちいいのよ…) 以前、別の人とすることになった時には、それはひどい嫌悪感だったというのに。 体のラインをなぞった手が、そろりと胸に伸びる。下着も何も付けてない胸を、シャツ越しに包まれた。 「む、んん…っ!」 抵抗しようと暴れる私を、抱きすくめて胸の先を刺激される。 「さわってほしいのかなって…こんなにしてるから」 キスだけで、反応した体を見透かされる恥ずかしさに体温が上がった。 「キスだけよ、約束したでしょう!」 「うん…だから、ここにもキスしてあげるね」 クス、と笑う唇に、嵌められたと思うよりも先に、薄いシャツ越しに胸の先を口に含まれて。ビリ、と電気が走るような刺激に目を閉じた。 「あ、ぁ…っ」 膝から力が抜けそうになるのを支えられて、感じるところばかり何度も甘やかされて。 「ジェ、ム…」 濡れてくすんだ金髪を、かき抱くようにすがりついた。 「アンバー…かわいい」 笑うような声で、腰の紐を引っ張られる。落ちてしまいそうなぶかぶかのズボンを慌てて押さえる手を、簡単に取られた。 無防備な下半身に、冷えた空気を感じて、ぶるりと体が震える。 「だめ、だめだから…」 「だって…こんなの、そそられないと思う?」 きっと涙目で、震える声で、とてもかっこ悪いと思うのに、ジェムは嬉しそうに笑って、また唇にキスをしてきた。 足の間に膝で割り込まれて、デニムの太ももに擦られる。 跳ね上がる体と声を、なだめるような優しいキス。 「…ベッド行く?」 首を振ったのに、そのまま横抱きに抱き上げられて、寝室の冷えたシーツにひどく大切そうに下ろされた。 *** ベッドの上。 見下ろす視界に長い金髪が散らばって、とても綺麗。 我慢できなくて、羽織っていた邪魔なシャツを放り捨てる。 そのまま、アンバーの着ているシャツのボタンに手をかけると、その手を押さえられた。 「なんで…気持ちよくしてあげるよ?」 首を振って、泣きそうな顔をされる。 (困ったな、泣き顔もかわいいなんて、ずるい) 「僕のこと嫌い?」 「っ…好き、よ…でも、もうしないって…」 「キスしかしないよ、ほんとに」 胸がいやなら、とはだけて見えるなだらかな曲線のお腹にキスをする。 「君にキスするなら、どこでも好きだから」 唇で舌で、なめらかな肌の感触を楽しむ。びくびくと震える極上の体は、相変わらず敏感で。 ──ああ、中に入りたい。 「だめ、許されないわ、こんな…」 誰の許しがいるっていうのさ、誰より愛しい人とする行為を、誰に咎められるものか。 そう思うけれど、アンバーは神様を信じてる。 そっと笑って、アンバーの頬を撫でた。 「今日はこんな嵐だ。空も荒れてるから、神様だってこんなとこ見えたりしない。…ね?」 無理やりな説得に驚くアンバーの、足の間に入りこむ。 「やだ、だめ!ダメだって…!」 「キスならいいんでしょ?君との約束は守るよ」 無防備すぎるその場所で、そっと押し開けば蜜をこぼす花びら。 舌と唇で、丁寧に触れていけば、ほころんでとろけて。アンバーの中でもここが一番、素直でかわいい。 「ふ…っ、んーっ…」 首を振ったって、逃がさない。 一年ぶりだよ? (そりゃね、後悔はないわけじゃない…) 僕らは姉弟で、ふたごで…だからアンバーに余計負担を強いてる。そして、こればっかりはどうしようもないんだ。 (だけど…) 諦めようとはした。何度も。 自分を傷つけようとしたことさえあるけれど、アンバーと二度と会えないのは怖くて。 (ピアス、もうひとつ増やせるかな…) ──3つのピアスは、アンバーを貫いた夜の数。 貫くばかりじゃ割に合わないかと、なんだか申し訳ない気持ちで自分に傷を残してみた。 耳に届く甘い声を楽しんで、ぴちゃぴちゃと飽きずにアンバーを舐めながら、とっくに張りつめてる自分を取り出す。 「ね、アンバー」 濡れた口元を親指で拭って顔を上げると、力の抜けた眼が見上げてきた。 「僕のにも、キスしてくれる?」 細い手を取って熱を握らせると、びく、とアンバーの肩が跳ねた。 ぺろ、と舐めた唇はアンバーの味がする。 「ね、楽にして?…正直キツい」 無理やりな事はしたくないから、結構必死に理性で押しとどめて頼んでみる。許可もなく犯すなんてことは絶対しないと決めてるから…まぁでも、この手はとても、気持ちがいい。 「…だって…」 「自分でも治められるけど、アンバー…キスだけならくれるんでしょ?」 白い手に握らせたまま、数度動かすだけでも腰にクる。 「ヤバ…そんなにもたないや、だから…」 こくりと息を飲んだアンバーが、もう片方の手を添えて、見上げてきた。 「そんなに、気持ちいいの?」 「ん…なんで?」 「そんな顔してるもの。手だけでも気持ちいいの?…でも、キスの方がもっといい、のかしら…」 「どうしても嫌なら、手だけでも大丈夫…も、アンバーならなんでもいいかも…」 きゅ、と握られて、情けないほど息が上がる。 君がそばにいる、肌に触れられて、同じソープを使っているのにとても甘い香りがしてさ。 その琥珀色の目に、僕が映っていてさ。 そんなことひとつひとつが、嬉しくて恋しくてたまらなくて。 (きみにはきっと分からないよ。僕がいまどんなにうれしくて、君のことが愛しいのかなんて) 「じゃあ、してあげる…」 「え、ウソ」 どうせ嫌がられると思っていたおねだりは、そんな言葉で受け入れられてしまった。 驚いているうちに、きれいに整えられた指が、絡みついてきて。美しい花のような整ったアンバーの顔が、そんなところに伏せられて、…キス。 「…っぁ…」 体温が、上がる。クラクラする。 熱い舌が這えば、そこから融けそうな気がする。そのまま唇に、口の中に、包まれる。 「は…っく…ぅ」 (信じられない。…アンバーが、僕の…) こんなの、視覚の暴力だ。 妄想なんか比にならない。熱い粘膜にしっとりと包まれた部分は、ろくに擦ってもいないようなこんなにも拙い刺激だというのに、勝手にたまらなくなる。 試すように、口の中に収められた先端の膨らみをそろそろと舐められる。それだけだったのに。 「あ、アンバー…ダメだ、離して…出ちゃう、から……ぁッ!」 どうにも興奮が止められなくて、情けなくも暴発してしまった。…慌てて目を向けると、アンバーの口元と指がべとべとになっていて。 「ごめ…すぐ拭かないと」 (ヤバ…むちゃくちゃ気持ちよかった…) さっき放り捨てたシャツをかき寄せて、アンバーの顔と手を拭う。 手の甲に拭き残したものに目を向けたアンバーが、ふとそこに舌を這わせた。 「何、して…」 「…しょっぱい、それにちょっと苦いのね…」 ふぅん、と目を伏せて、それから、きれいな琥珀色の瞳がいたずらっぽく見上げてきた。 「この私にこんなことさせるなんてね、ジェム。…そんなに私が欲しいの?」 強気な瞳が魅力的にきらめく。 「欲しい。知ってるくせに、僕はずっと君が欲しくてたまらない」 何度だってそう伝えてきた。体も、心も、どちらかだけじゃなく君の全部を好きで、求めてやまない僕の気持ちを。 「…気持ちよく、愛してくれるのね?」 「うん。最大限、そのつもり」 「じゃあ、…キスから先を許してあげる。今だけよ」 流されるわけじゃない、どちらかが悪いわけじゃない。ちゃんと向き合ってあげる。 そう言ってくれるようなその顔に、また恋をしてしまう。 「っ!…ズルいよ、それ…」 細い肩を抱き寄せる。重なった体の間で、アンバーのやわらかな胸がゆがむ。 びっくりするほど簡単にまた勃ちあがる自分に笑えてくる。 「もう、止まれないからね」 「ええ」 奪うようにキスをしながら、アンバーの入り口を指で探った。 何もしなくてもいいくらい潤ったそこを、それでも心配で、慣らすようにかき混ぜた。 「ん、んんぅっ!」 うわずった声が口の中で響いて、嬉しくなる。たまらなくなった細い指が、僕の髪を乱してすがりつかれるのも、嬉しい。 (ねぇ、君も欲しがってくれてるの…?) 「アンバー…」 細い腰を持ち上げて、スキンをつけた自分をそこにあてがった。 目線だけで伺うと、かすかに笑ったアンバーが、こくりと首を縦に振る。 「好きだよ…いつでも、誰よりも」 「好きよ、ジェム。どんな宝物よりもあなたが」 神様に誓えない僕達は、どこに願いを誓えばいいのだろう。 手を繋いで、キスをして。 そっと、ふたりで境界線の扉を開く。 「あ…っ、く…」 きつそうに眉を寄せるアンバーに、腰をひこうとすると、肩に爪を立てられた。 「アンバー…無理しないでも」 「好きな、相手を…受け入れたい女を、止めるなんて無粋なこと、しないで…っ」 ギリ、と爪が食い込む瞬間に、熱に飲み込まれた。 「く、んん…っ」 ぶる、と震えたアンバーが、しばらくして力を抜いて。それからジェムの頬に触れて、とても綺麗に笑った。 「動いても大丈夫、たぶん」 「きつかったら言って」 「…約束通り、気持ちよくしてね」 返事の代わりに、溶け合った腰を揺らした。 上がっていく息と、深くなる律動。 よく似た色の髪が乱れて、甘く震える声の不協和音。 ──鼻の奥がツンと、切なくなる。 (なんで泣きそうなんだろ…) 「アンバー…?」 「なんでも、ないのっ…続けて…っ」 隠そうとする、頬を流れる涙。 なのにどうしてアンバーは笑っているのだろう。 「気持ちよすぎて、泣けてるだけよ…」 泣き笑いの顔が、こんなにも愛しい。 ああ…──幸せって、こういうこと? 罪深いかもしれないけど、僕らは、こんなにも幸せすぎて。 *** ベッドに沈んで、長い金の髪を撫でる。 ひどく愛しいものに思えて、そのまますくい上げて唇で触れてみた。 「ねぇ」 アンバーが、手を伸ばしてジェムの耳のピアスを撫でた。 「次は、ピアスじゃなくて指輪がいいわ」 「…気づいてた?」 その理由。きっとその意味まで。 「なんとなく。まぁ、虫除けみたいなものだから安い指輪でいいわよ。…今度一緒に見に行きましょう」 「…いいのかな、僕はいいけど君は」 恋人同士なら、指輪を贈りあい堂々と指を飾れただろうけど。…僕らは、そんなことひとつにすら痛みを伴うことになるのに。 ふふ、とアンバーが笑う。 「境界線越えちゃったもの。…その分、幸せにしてくださる?」 「それっ、……人生かけて、って答えていい?」 笑って、手を繋いで。 お互いに誓った、嵐の夜。
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