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第39話

 彼女の首筋に顔をうずめると、柔らかな花の香りがした。懐かしい香りについ彼女の耳の裏側に鼻を摺り寄せると、それがくすぐったいのか彼女が肩を竦ませる。ため息にも似た吐息の合間に聞こえる彼女の声が、少しずつ熱を帯び始めた。  着ているガウンの結び目を解きそれを引き抜き、わずかに開いたあわせから差し入れた手を滑らせるようにしながら脱がせると、ルームライトの柔らかな灯りが彼女の体を照らしだした。曲線とやわらかさを味わうように彼女の体を撫でていく。唇を重ねながらもどかしいまでの動きを繰り返していると、それに耐えられないのか彼女が俺のガウンを脱がせ始めた。 「ずいぶん積極的だね」  わざとからかいながらキスしようと顔を近づけたとき、彼女がぷいと顔をそらした。 「……知らない」  乳房を両手で隠し冷たく突き放すような態度をとりながら逃げる彼女に近づこうとすると、それすらも拒むように背中を向けられた。 「ごめん、悠里」 「んっ」  彼女の耳に唇を寄せると、彼女が体を震わせた。 「悠里がかわいいから、いじめたくなるんだ。ね、機嫌直して」 「や……」 「や、じゃないよ。そんなにかわいい姿を見せられたら、もう……」  拗ねながら体をよじる彼女の姿が艶かしく感じる。ライトの淡い光に照らされて、そこから生じた陰影が彼女の体の曲線を際立たせていた。作並で過ごした最後の夜に月明かりに照らされた彼女の体も美しかったが、今目の前に横たわっている彼女もまた美しい。彼女が体を捩るたびに長い黒髪が揺れ動いた。  小さな耳を軽く噛むと彼女が体を震わせた。舌先で耳裏の柔らかな皮膚をなぞると、彼女がくぐもった声をあげる。乳房を隠していた手をゆっくりとそこから外そうとしたとき、彼女がそれを拒むかのように体を捻った。あらわになった彼女の背中がライトの灯りで照らされ、その艶かしさに息を呑む。  彼女の背中は、二ヶ月前まで男を知らなかったとは思えないほどの色気を漂わせていた。無防備にさらけ出された彼女の背中を見たとき、彼女の最初の男が自分であるという悦びを感じた。それと同時にこのような姿を見れるのは自分だけでいたいと願わずにはいられなかった。  愚かな男の独占欲ではあるがそれを見せてしまえば、彼女は恐れを抱いてしまうだろう。だから沸き起こる衝動を必死に押さえ込んで、彼女の背中に唇を押し付けた。立ち上がったばかりの彼女の肌の香りが濃さを増す。彼女のくびれに触れながら背骨のくぼみに沿って吸い付くと、彼女の声が艶めいたものへ変わりはじめた。  体が熱い。まだはじまったばかりだというのに、すでに全身の皮膚から汗が吹き出していた。火照った肌にひんやりとした夜の空気がまとわりついて、どれほど自分の体が熱くなっているのかわかる。  どんどん全ての感覚が研ぎ澄まされていく。意識が下半身に集まりだした。自分の息遣いが荒いものへと変わっていて息苦しさを感じてはいたが、それよりも体の内側からこみ上げる熱を押さえ込むのに必死だった。彼女の腰を抱えるように持ち上げると、それに気づいた彼女がこちらを振り向いた。 「浩正、さん?」 「ね。悠里、腰を少し上げて」  それをあえて無視して、腰のくぼみから続くまろみを帯びた彼女の尻に吸い付くと、かすかに劣情を煽り立てるような匂いがした。すると彼女が少しだけ腰を上げる。それを両手で支えながら持ち上げると彼女が小さな叫び声をあげた。  さらけ出された濡れそぼつ秘裂に音を立てて吸い付くと、持ち上げた彼女の腰がぶるぶると小刻みに震え始めた。溢れんばかりの蜜で濡れていた熱く柔らかな花弁を舌先でなぞると、彼女がそこから逃げ出そうと腰をよじる。彼女が逃げないようにしっかりと腰を抱き、濡れた花びらを押し開きながらその奥へ舌を伸ばすと、ひくひくと蠢く肉壁の感触が舌先に伝わってきた。  彼女が腰を揺らめかすたびに、濃厚な女の匂いが立ち上がる。舌先を動かすたびにその奥からとめどなく愛液が溢れ出ていた。ぬめりを帯びたものが少しずつ水のようなものへと変わったころ、そこから顔を離した。口中に残る彼女の雌の匂いは、雄の本能を駆り立てるには十分すぎるものだった。  ゆっくりと彼女の体をベッドに横たえさせると、すっかり息があがっているようで荒い呼吸をするたびに彼女の乳房が大きく上下に揺れていた。乳房の先端がすっかり立ちあがっている。いまだ絶頂を迎えていないからかそれを求めるように、彼女が腰をくねりくねりと揺らしている姿は俺を誘っているようにしか思えない。  シーツの上に投げ出された彼女の両脚の間に体を滑り込ませようとすると、彼女が脚を閉じようとしたので、少し強引ではあるがそこを手でゆっくりと押し広げた。かすかに抗おうとしている彼女の体に覆いかぶさると、抵抗を諦めたようで脚から力が抜けていく。どくどくと脈打つのがわかるほど硬く張り詰めたペニスの先端を、愛液でしとどに濡れているところへあてがうと彼女の腰が揺らめいた。彼女の唇がかすかに開く。その様子を俺は眺めていた。 「悠里、こっち見て」  目を細めながら視線をさまよわせていた彼女の瞳がゆっくりと開いた。切なげなまなざしを向けながら、彼女がつぶやいた。 「ね……」 「ん?」 「もう……」 「もう? なんだい?」  彼女が何を望んでいるかなんてわかりきっていた。それなのに随分意地の悪い返しで答えると、彼女は今にも泣きそうな顔で俺を睨み付けてきた。 「何がほしい? 言って、悠里」 「……や!」 「言ってくれないとずっとこのままだよ? それでもいい?」  すると彼女が悔しそうに唇を噛み締めながら、喉から声にならないうめき声をあげた。 「何がほしいの? 俺が欲しいの? それともコレが欲しいの?」  腰を動かしペニスの先端で彼女の秘裂を撫でると、すっかり濡れているその場所から淫猥な水音が聞こえてきた。熱く柔らかな花びらの感触が先端から伝わり、できることならすぐにもそこに差し込みたい衝動がこみ上げてくる。ゆらゆらと腰を動かすたびに淫猥な水音がした。我ながら子供じみた問いかけをしていることくらい自覚していた。だが彼女の言葉がどうしても欲しかった。  するといきなり彼女が腕を首に回してきて、強い力で引き寄せられた。眼前に迫る彼女の瞳はすっかり潤んでいて、何が欲しいのかひと目でわかるほどだった。 「ね?」  強請るような甘い声で俺を誘惑する。その誘惑にどうして抗うことができるだろう。その一言がどんな意味合いを持つものか、そして控えめな彼女がとった行動が何を意味しているのかわからないほど俺は鈍感な男ではない。彼女の首筋に唇を寄せながらゆっくりと彼女の中にはいった。 「あげる。俺を全部。だから悠里の全部を俺にちょうだい」  そう告げると彼女は小さく頷き、俺の首に回した腕の力を強くした。彼女の首筋にむしゃぶりつきながら、柔らかく俺を包み込む彼女の奥へと向かう。熱く濡れた彼女の媚肉が俺をすっぽりと包み込み、じわじわと締め付けてきた。全身の皮膚から一斉に汗が吹き出して、汗を滲ませている彼女の体とこすれ合う。  抜き差しを繰り返しながら少しずつ奥へと向かうと、俺を包み込んでいた柔らかな肉壁がいきなり容赦なく締め上げてきた。少しでも油断すればすぐさま欲望を吐き出してしまいそうになりながらも、それを必死の思いで押さえ込みながら耐えていた。  だが押さえれば押さえるほどにどんどん感覚が鋭くなっていく。そしてすべての意識が一斉にそこに向かい始め、奥歯を噛み締めた。 「んっ……。やっ、あっ!」  体を大きく震わせながら、彼女がしがみついてくる。彼女の体をきつく抱きしめたまま中をえぐるようにすると、突然彼女が背をそらし腰を俺の体に押し付けてきた。そのとき一気に奥まで入り込んでしまいペニスの先端が柔らかいものに当たって、そこから一斉に快感が押し寄せてきた。全身が震えるようなその感覚に飲み込まれそうになるのを押しとどめたとき、彼女が俺の背中に爪を立てた。  一瞬感じた鋭い痛みが、快感に飲み込まれそうだった俺を引き戻してくれた。彼女の唇を塞ぎ無理やり舌をねじ込むと、それを絡め取ろうとするかのように彼女の舌が激しく動く。貪るように口付けを交わしながら体を重ねていると、彼女が唇を離した。 「イ、くっ!」  その瞬間彼女がそれまで以上の力で締め付けてきて、その力に抗う暇もないままに一気に欲望が駆け上がって弾け飛んだ。体の内側に溜め込んだ熱を放ち終えると、体を小刻みに震わせていた彼女を抱きしめた。吹き出した汗で彼女の背中がしっとりと濡れていて、その感触が手のひらから伝わってくる。  男は単純な生き物だと思う。絶頂を迎えた彼女の姿に悦びを感じてしまうのだから。荒い息遣いを繰り返している彼女の中は、俺を包み込んだままひくひくと小さな痙攣を繰り返している。そのままじっとしていると、首に回された彼女の腕が力なくぱたりと落ちた。 「悠里?」  つながったまま体をゆっくりと離すと、彼女は荒い呼吸のままで余韻にひたっているかのような、うっとりとした表情を浮かべていた。 「大丈夫? 苦しくない?」  そう問いかけながら、汗ばんだ額に張り付いた髪の毛を手で取り払うと、潤んだ目を向けられた。絶頂の余韻に浸りながらも、俺の言葉を理解できているようで、彼女は笑みを浮かべながら小さく頷いた。その姿がいじらしくて愛しくてたまらない。  すっかり力が抜けた彼女の体を抱きしめ、ゆっくりと引き抜く。するとそれを引き留めるように、彼女のなかがわずかに蠢いた。再び離れることは名残惜しいけれど、俺たちはようやくはじまったばかりだ。互いの思いを重ねるように、また抱き合えば良い。  繋がりを解いたあと、汗ばんだからだを抱きしめる。すると、彼女は甘えるように体をすり寄せてきたすっかりめくれ上がった布団を引き上げて、まだ火照りが覚めやらぬ体に掛けると、すぐに彼女の寝息が聞こえてきた。  田沢の言う通りだ。告げたい言葉があるのなら、言葉にして伝えないと意味がない。これからは、彼女にちゃんと告げよう。飾らない言葉で、思いの丈を。そしてそれに彼女が応えてくれたなら、どれほど嬉しいことだろう。そんなことを考えているうちに、満ち足りた気分で眠りについていた。
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