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第36話

 両開きの扉の前で、深呼吸をした。この向こうに彼がいて、私を待っていてくれている。ドアの横にあるボタンを押すと、扉の向こうから軽やかなチャイムの音が聞こえてきた。その音が聞こえた後ごくりと唾を飲む。しばらくそのまま待っていると、扉の向こうに人の気配がした。  それから先はスローモーションのように、すべてのものがゆっくりと動いていた。目の前にドアがゆっくりと開く。そしてすぐに彼の姿が見えた。彼の姿を見た瞬間体が震えてしまい、胸が熱くなった。 「悠里、久しぶりだね。さあ、入って。そこは寒いだろう」  彼は開いたドアを押さえながら、穏やかな笑みを浮かべている。よく見ると見覚えのある服を着ていて、それが初めて会ったときと同じものであることに気付いた。彼の姿に目を奪われてしまう。心臓が高鳴り、全身が熱い。彼がそこにいることが嬉しくて、何も考えられなくなっていた。  促されるまま中に入ったけれど、まるで雲の上を歩いているようだった。ふわふわとした浮遊感の中、彼のあとを追いかけた。目の前にある背中に抱き着くと、回した手をそっと包み込むように温かい手が重なった。 「悠里?」 「会いたかったの……」  震える声で伝えると、彼がゆっくり振り向き、私を抱きしめた。彼の体温が伝ってきて、嬉しさから体が自然と震える。 「俺も、会いたくて仕方がなかった。でも……」  言葉を濁す彼。その言葉に胸が痛くなる。 「ごめんなさい……」 「俺も謝らないと、ちゃんと伝えていなかったことがあるからね」  彼を見上げると、照れくさそうな笑みを浮かべている。そしてゆっくりと顔が近づいてきて、唇をやんわり塞がれた。唇の表面だけを触れるキス。そしてすぐにそれは離れていった。彼を見ると眩しそうに目を眇めている。 「好きだよ、悠里」  その言葉が耳に入ったとき、何も考えられなくなって、何度か目を瞬かせた。すると彼が苦笑しながら、わずかに首を傾げて見せた。 「悠里は? 俺に会いたかった、だけ?」  胸の奥から熱いものがこみ上がり、涙となって目に溜まる。彼の姿が滲んできて、泣いていることに気が付いた。会いたかっただけじゃない。もっと違うことを伝えなきゃ。そんな声がどこからか聞こえた気がした。 「違う! 会いたかっただけじゃない! 好き! 大好き! あなたが好き!」 「わかった、わかったよ、悠里。じゃあ、今夜ははじまりの夜だ。朝までゆっくり一緒に過ごそう」  そう言うといきなり体を持ち上げられてしまい、視界が一気に高くなり思わず彼の頭にしがみついた。そのとき以前も同じようなことがあったのを思い出し、体を離そうとしたらバランスを崩してしまい、あわてた彼が腕の力を強めて私を抱きかかえ直してくれた。  彼の顔を見上げると嬉しそうな顔をしていた。にこにこと嬉しそうな顔で、私をしっかり抱きかかえながら彼が廊下を歩く。今夜がふたりのはじまりの夜、そう思うだけで自然と体が熱くなっていた。  茶色のソファに二人並んで座りながら、いろんな話をした。彼と別れた朝のこと、眠る彼にキスしたこと。全身にちりばめられたキスマークを見たとき驚いたこと。  そして彼からのメッセージを受け取ったとき、どれだけ嬉しかったか伝えると、彼が嬉しそうな顔で私の体を抱き寄せた。しばらくじっとそのままでいると、彼が体を離し、何かを思い出したように話し始める。 「そういえば地蔵めぐりしたとき買った小瓶あっただろ」 「あ、ありますね。確かポーチの中に入れたまま……」 「あれね、7つの瓶のコルク栓の下に仕掛けがあるらしい」 「仕掛け、ですか?」  うんと彼が頷く。 「田沢の話だとそのコルク栓を7つ並べると、メッセージになるようなんだ」 「へえ……」 「一緒に見ようか。週末うちで過ごそう」 「え?」 「いや?」 「あ、いえ、いや、じゃなくて……」  気のせいかもしれないが、彼の体がどんどん近づいていて、私に押し掛かってきているような気がする。それに彼の手が私の体を撫でていた。その動きに覚えがあるものだから、彼が何を求めているのか気づいてしまい、体が火照り始めた。 「あ、あの……」 「ん?」 「しょ、食事、とか……」 「ああ、あとで一緒にベッドで食べよう」 (え?)  どんどん彼の体が覆いかぶさってきて、ついに彼が首筋に顔を埋めてきた。首筋に彼の柔らかい唇が押し付けられている。体を撫でる彼の手が、どんどんいやらしくなってきて体がびくびくと震えてきた。そして両脚の間に彼が入り込んできて、ガーターストッキングのレースを撫で始める。さわさわとその感触を確かめるように。 「いいね、準備万端だ……」 「あ……っ」  ワンピースの裾をまくり上げられて、すっかりあらわになった太ももを撫でられた。ストッキング越しの愛撫は素肌を撫でられるより気持ちがいい。彼の手が動くたびに腰が勝手に揺らめいて、思わず彼の背中に腕を回した。首筋から喉を何度も吸い付かれ、彼が吸い付くたびにちりっと痛みが走る。 「もう少ししたいところなんだが、それはもう少しあとの楽しみにしようかな」 「ふぇ?」  既に彼の愛撫のせいで全身から力が抜けているのか、口がうまく回らない。彼がゆっくり体を起こしながら、ジャケットの内側から小さな箱を取り出した。彼がソファに腰掛ける。伸ばした左足を持ち上げられて、足首に何かを巻き付けられた。金属の冷たい感触がする。 「これ、俺のものだというしるし」 「え?」 「左足にするアンクレットは意味があるんだ。もう自分にはパートナーがいますよって」  チリ、チリと透き通るような鈴の音が聞こえる。カチャと金具を留める音がして、体を起こして左足を見てみると、左足には綺麗なアンクレットが着けられていた。チリ、チリと軽やかな音が鳴る。 「それに、悠里の足首はきれいだからね。それに合うようなものを用意した」  彼が左足の足首を掴んで、腱のあたりをぱくりと噛んだ。生暖かい感触が伝い、とっさに体が震える。彼が腱を守る薄い皮膚を舌で舐めはじめ、そこからもどかしいほどの愛撫が始まった。ストッキングが彼の唾液で濡れて肌にこすれる。肌を這う舌の動きが、ひどくいやらしかった。つま先に力が入り、なんとか逃げようとするけれど、彼の腕がそれを阻む。 「悠里の足は小さいね、かわいい」 「ひゃああああ!」  彼が迷うことなく、足の指をぱくりと口に含んだ。生暖かい舌で指をちろちろと舐められて、そこから伝う唾液の感触が更に興奮を誘う。全身が一気に熱くなり、体の奥から温かいものが漏れ出した。タイミングを見計らったかのように彼がすかさずショーツのクロッチに指を伸ばし、漏れ出したものを確かめるように撫ではじめる。触れられたところが熱くて、じんじんと疼いた。 「濡れてきたね……」  足の指を舐めながら、彼が意地悪な顔をする。その表情に私は欲情していた。足が震えるたびにアンクレットの鈴の音が聞こえてくる。チリ、チリリ、チリ。その音を聞きながら、私は彼の愛撫に身を任せていた。
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