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Act.10-02

 俺はやはり、呆然としたまま、ゆっくりと首を縦に振る。  まさか、こんな所で砂夜と再会するとは夢にも思わなかった。 「〈天使〉なんてガラじゃないでしょ?」  つい先ほどまで、『こーんな麗しい容貌を持った魔物がどこにいるってんだいっ?』などと踏ん反り返っていたのが嘘のように、砂夜は照れ臭そうに頬を指先でポリポリと掻いている。 「ほんとは、この姿のままで宮崎の前に出るつもりだったんだけど……、いきなり出たら、宮崎が怯えて逃げちゃうんじゃないかって思って、全く違う姿に化けてみた。でも、どっちにしても脅かしちゃったのには変わりなかったみたいだね」  悪戯っぽく笑う砂夜に、俺もようやく、「卑怯じゃねえか」と苦笑いを浮かべるだけの余裕が生まれた。 「けど、どうして天使なんだ? 幽霊として出てくるってんならまだしも……」 「なにそれ? だったら私に化けて出てきてほしかったわけ?」 「いや、そうじゃなくて……」  口調は俺の前に出てきた時よりはソフトになっていたが、どちらにしても、俺を黙らせてしまうほどの気の強さは、生前と全く変わっていない。  どうしたものかと頭を抱えていると、砂夜からクスクスと忍び笑いが漏れてきた。 「ほんと、宮崎って相変わらずからかい甲斐があるわ」  砂夜は笑みはそのままで、俺の隣に腰を下ろした。 「宮崎と別れてから、私は、ただひたすら歩いてた。どんなに力んでも、涙は止まるどころか、どんどんと溢れてくるんだもん。凄く困っちゃった。  泣いて、ずっと泣いて、だんだんと体力も消耗されてきちゃったんだね。すっかり注意力がなくなってて、気付いたら……、自分のすぐ目の前に、眩しい光が猛スピードで迫ってた……」  ここまで言うと、砂夜の表情がわずかに曇った。  考えるまでもない。  それからすぐ、砂夜の生命の灯は消えてしまったのだ。  ほんの数秒という、一瞬の時間で。
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