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Act.9-01※

 翌日は、いつも通りに出社した。  一見、いつもと変わらぬ光景だが、そこには、いるはずの人間がひとり欠けていた。  砂夜がいない。  けれども、この時の俺はまだ、単純に風邪でも引いて欠勤したのだと思い込んでいた。  いや、思いたかった。  砂夜の仮通夜には、定時で上がってから、昨晩に電話をしてきた倉田さんと共に行った。  本通夜ではないから、実家で密やかに行うらしい。  砂夜とはよく飲みに出かけていても、実家に行くのは初めてだった。  しかも、亡くなってからお邪魔することになろうとは、ずいぶんと皮肉な話だ。  家を訪れた俺達を迎えてくれたのは、砂夜の母親だった。  砂夜よりは大人しそうな印象があるが、目元はやはりよく似ている。  多分、自分が腹を痛めて産んだ娘だけに、母親の方が断腸の思いでいることだろう。  しかし、俺達には哀しい顔を見せることはなく、むしろ、口元に笑みさえ浮かべていた。  それがまた、相当の無理をしているのではないかと、見ているこっちが痛々しい。  砂夜は案内された一階の一番奥の八畳間の座敷で、静かに横たわっていた。  そのすぐ後ろには祭壇があり、信じたくなかった現実を突き付けられる。
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