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Act.8-02※

『――宮崎君、落ち着いて聴いてね?』  ようやく意を決したのか、倉田さんが口を開いた。 『――砂夜……、死んじゃった……』  一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。  俺は呼吸を整えると、「もう一度言ってくれませんか?」と訊いた。 『――だから……、砂夜が死んだ、って……』  何度も言わせないで、というニュアンスを籠めて、倉田さんは繰り返す。  俺の中で、何かが崩壊した。  倉田さんは冗談を言っている。そう思いたかった。  しかし、彼女はつまらない嘘は吐かない人だ。  ましてや、人の死を軽々しく口にするなんてことは絶対にあり得ない。 『――宮崎君……?』  俺からの反応がなくなったことに、今度は倉田さんの方が気になったらしい。  電話の向こうから、恐る恐るといった感じで俺に呼びかけてきた。 「――聴こえてます……」  辛うじて口にしたが、自分でも、声が掠れ、震えているのが分かった。  恐らく、倉田さんにも俺の動揺は伝わったはずだ。  倉田さんは心配そうに、けれども、気丈に続けた。 『明日、ごく近しい身内だけで仮通夜をやって、明後日に本通夜、明々後日に葬儀と火葬をするそうよ。宮崎君、砂夜とは凄く仲が良かったし、顔を見せてあげて。砂夜もきっと喜ぶから……』 「――分かりました……」  倉田さんの言葉に、俺はやはり、上の空で答える。  最後に、『それじゃあね』と別れの挨拶をされて通話が途切れてからも、携帯を耳から放せなかった。  右手には、変わらずにジッポーが握られている。  ずしりとした重みが、俺の心に突き刺さった。
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