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Act.8-01

 突然、スーツのジャケットの内ポケットに入れたままにしていた携帯電話が、ブルブルと震え出した。  俺はハッとして顔を上げ、目に飛び込んだ壁時計を仰ぎ見る。  どうやら、二時間ほどローテーブルの上でうつ伏せになって眠ってしまっていたらしい。  携帯は、相変わらず震え続けていた。  俺は内ポケットを弄って携帯を出すと、出る前に着信相手を確認する。  けれども、未登録の相手だったらしく、名前ではなく、携帯番号が表示されていた。 「もしもし?」  いつも以上にトーンを落として電話に出た。  もしかしたら、間違い電話なのでは、と思い込んでいたのだ。でも、すぐに間違い電話ではなかったことに気付いた。 『あ、もしもし宮崎君? 倉田(くらた)です』  俺とは対照的なソプラノボイスで、相手は最初に名乗った。  倉田という名前は、よく知っている。  同じ職場の三歳年上の女性社員だ。 「はい、宮崎ですけど……。どうしましたか?」  携帯番号を知っていることにも少なからず驚いたが、それよりも、急に電話をかけてきたことの方がより気になった。 『――宮崎君……』  そこまで言いかけて、倉田さんは押し黙ってしまった。 「あの、倉田さん……?」  このままだと、延々と沈黙を守ったままになりそうだ。  俺はそう思い、電話の向こうの倉田さんに呼びかけてみる。 『――宮崎君……』  また、先ほどと同様、俺の苗字を口にするのみだった。  じれったい。  けれど、急かす気にもなれず、倉田さんから話を切り出すまで、こちらもジッと携帯を耳に押し当てていた。
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