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Act.6-02

 何も言えなくなった俺に、砂夜は眉根を寄せながら続けた。 「私はずっと、宮崎が好きだった。あんたに出逢うまでは、異性になんてそんなに興味が湧かなかったけど、宮崎だけは、一緒にいるだけで嬉しくて楽しくて、幸せだった。  だから言えなかった……。宮崎は……、私を〈女〉として見てなかったのにも気付いてたから……」  そこまで言うと、砂夜は俺から手を放し、肩からかけていたバッグからおもむろに何かを取り出した。  出てきたのは、手の平に埋まりそうなほど小さな白い箱だった。 「受け取って……。この中に、私の精いっぱいの気持ちが入ってるから……」  あまりにも急な告白に困惑している俺の手に、砂夜が箱を包み込んできた。 「――ごめん……」  やっとの思いで出たのは、謝罪の言葉だった。  自分でも、何故、そんなことを言ってしまったのか全く分からなかった。  砂夜はこれをどう受け止めたのだろう。  一瞬、わずかに瞳を揺らし、けれどもすぐに、いつものように満面の笑みを浮かべた。 「別に謝ることなんてないって! てか、あんたを困らせたのは私なんだから!」  砂夜は踵を返し、俺に背を向けた。 「悪いけど私、先に帰るわ。あ、迷惑だと思ってんなら、それ、捨てちゃって」  振り返ることなく、砂夜が、一歩、また一歩と、俺から離れてゆく。  俺は咄嗟に、砂夜の手首を掴んだ。  砂夜はこっちを見た。  笑顔はそのままで――頬には、一筋の涙が伝っていた。 「お願いだから……、追い駆けて来ないで……」  俺の手をそっと解くと、砂夜は今度は、足早に俺の元を去ってしまった。  けれども、砂夜を追う気力はその時の俺にはなかった。  ただ、その場に立ち尽くしたまま、空を仰ぎ見る。  辺りに広がる満天の星空、そして、白銀色の雪の結晶が、フワリと舞い降りてきた。
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