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Act.4-01

 俺は職場の同僚だった永瀬砂夜(ながせさや)に、帰りがけに呼び止められた。  砂夜とは同期で、好きな音楽や本の趣味が共通していたこともあり、男女という隔たりもなく、すぐに意気投合した。  砂夜はどちらかというと、男のようにサッパリとしていて気丈な女だった。  例えば、俺が仕事でへまをして落ち込んだ時は、持ち前の明るさで励ましてくれたり、仕事のノルマが果たせずに残業せざるを得なくなった時は、コンビニで買ったパンとペットボトルのお茶を持って現れた。  そして、要領の悪い俺に呆れつつ、それでも、さり気なく手を差し伸べて手伝ってくれた。  俺の中では、砂夜は性別を超えた良き友だった。  見た目は目鼻立ちのすっきりした美人だったから、一部の男子社員からは密かに持て囃されていたようだが、少なくとも俺は、砂夜を〈女〉として意識したことはなかった。  だから、呼び止められた時も、単純に一緒に飯に行こうと誘われただけだと思っていたのだ。  ◆◇◆◇  俺は砂夜に連れられるまま、市街地の外れにある和食専門店に行った。 「おい、ここ高いんじゃねえの?」  いかにも敷居の高そうな店構えに、俺は尻込みした。  けれど、引いている俺とは対照的に、砂夜は堂々としたものだった。 「だーいじょうぶだって! それに今日は宮崎(みやざき)の誕生日でしょ? ちょっとぐらい奮発しなきゃ!」 「――へ?」  俺はこの時、非常に間抜けな顔をしていたかもしれない。  砂夜は俺の表情を見るなり、目を見開いた。 「あんたまさか……、自分の誕生日を忘れてたんじゃないでしょうね……?」  その〈まさか〉だった。  そもそも、誕生日というイベントに浮かれるのは子供の頃だけで、年月を重ねる毎にあまり重要視しなくなる。  運転免許の書き換えや、新たに行った病院で問診票を記入する時に、改めて自分も年を取っていたのかと認識するぐらいだ。
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