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第七夜(2)

「さっき、何があったんだ?」  高見から尋ねられ、スプーンを持つ手が止まった。向かいにいる彼を見ると、平然とした様子で食事をし続けている。問われた言葉の裏に潜むものを探るように、彼の表情を見ていたけれど、何も分からなかった。  仕事が終わったあと、いつものように連れ出され、おいしいと評判のフレンチレストランに向かった。白い壁に白いタイルが敷かれた床。店内には静かなピアノの音色が響いていた。南仏の隠れ家をイメージしたと思われる内装がおしゃれで、カップルと思われる男女ばかりテーブルについている。  高見にエスコートされて席に着いたが、食事が運ばれてきても彼は何もしゃべろうとしない。いつもなら、その日にあった出来事を面白おかしく教えてくれるのに。そしてようやく口を開いたと思ったら、先ほどの出来事のことだった。  高見は感情を表には出さない男だ。鉄面皮の下に隠れている感情を探ろうとして、無駄な労力を費やすくらいなら、気を逸らせば良い。 「さっき?」  素知らぬふりを決め込むと、高見が手を止めた。真面目な表情を向けられる。わずか窺うようなまなざしを向けられ、いたたまれない気持ちになった。それが無意識のうちに行動に出かけたけれど、目をそらさぬように意識した。すると高見が私を見つめたまま、小さなため息をついた。このため息は落胆か、それとも――。 「俺が戻ったとき、櫂に声をかけようとしていただろ? しかも随分思い詰めた顔で」 「そんな顔してた?」 「ああ、何もしらない人間から見たら、別れ話かその手の類いに思える程ね」  何も知らない、とはどういう意味だろう。とはいえ、それを聞くわけにもいかなかった。やぶ蛇になりそうで。しかし、高見はどこまで知っているのだ。私が御堂に好意を抱いている程度にしか思っていないならば、こんなもったいぶった言い方はしないはずだ。 「それは気のせいよ。だってあのとき、御堂さんの悪筆のことを話していたんだもの。お習字習ってみたらいかがですかと言ったら、じっとしてるのが苦手だって言って。だったらタブレットのメモに書いたらいかがですと言ったら逃げられたの、それだけ」  事実だけを伝えるが、高見は納得していないようだった。私の目を見つめながら、心の揺らめきを見抜こうとしているような気がして落ち着かない。だが、たとえそれを見抜かれても問題はないはずだ。だって私達は恋人でもなんでもないのだから。そう自分自身に言い聞かせ、彼を見つめ返した。 「そうか、それならいい。俺はてっきり……」  そう高見が無表情のまま言いかけたとき、彼の脚を片足でそっと撫でた。すると彼が目を見開いた。その目を見つめながら、ゆっくり脚を持ち上げて、彼の膝をつつく。そして内ももに差し入れて、ヒールのつま先でなぞる。私を見つめる彼の目が、どんどん熱っぽいものへと変化した。そして無表情だった顔が、ほころんでくる。  私と高見は、こうやって一時の快楽を共有するだけの関係なのだから、それ以外の感情は邪魔なだけ。これ以上御堂とのことを詮索されないように、気を逸らさせなければならない。御堂への感情を知られても問題はないのだが、快楽を共有している相手に知られたくもない。腰をずらして、つま先をそこへ差し向けると、すでに硬くなり始めていた。 「これはまた、随分と……」  高見がずる賢そうな笑みを浮かべて私を見る。 「積極的な女はお嫌い?」 「いや、嫌いじゃないが……」 「が?」  聞き返した直後、彼の股間を撫でていた脚を突然掴まれた。 「煽ったからには、相当の覚悟をしてもらう」  向けられたまなざしは、ひどく冷たいものだった。そして、その数分後とんでもない仕返しをされることになるとは、このときの私は思いもしなかった。
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