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第75話

「かぐや殿が、聞いておりまする」 「聞かせているんだ」  さっと立ち上がって、私の前に移動した近盛様が 「近貞の所作は心もとないと思うが、久嗣に身を任せていればいい」 「兄上ッ!」  耳まで赤くして怒鳴る近貞に 「赤鬼の機嫌を損ねきるまえに、退散をしようか」  機嫌よく笑い声を立てながら、騒ぐ人々に声を掛けに行く近盛様は、最初の印象よりもずっと柔らかな人なのではないかと感じて、ほっとする。このように体中から喜びや楽しみをあふれさせることの出来る、武家の生活は今よりもずっと自由でいられるような気がした。 「近貞」 「――う」  羞恥を唇で堪える近貞の手を、そっと掴む。顔を寄せて耳元で 「今宵は、いいえ……これから末永く、いつまでも可愛がってくださいませね」  ささやけば、赤い顔を更に赤くした近貞が、力強く頷いた。  目の端に、萩が良い人と寄り添っているのが見えた。幸せそうなほほえみに、私も同じような顔をしているのだろうかと、確かめたくなる。 「近貞」 「うん?」  まっすぐに、近貞の目の中の私を見つめる。萩に負けないくらい顔を輝かせている私がいた。 「新月のかぐやは、地上のウサギの矢に射止められました」 「俺は、ウサギか」 「はい」 「ふうむ」  少し考えるようなそぶりをしてから、手を握り返してきた近貞の顔は満月よりもずっと、きらきらと輝いている。 「ウサギは月に住まうもの。俺がかぐや殿を求めるのは、当然の事だったのだな」  声なく頷けば、私の視界は近貞に埋め尽くされる。柔らかく唇を押しつぶされて、私は初めて愛おしいと思った方の、妻となった。
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