75 / 75

第75話

「かぐや殿が、聞いておりまする」 「聞かせているんだ」  さっと立ち上がって、私の前に移動した近盛様が 「近貞の所作は心もとないと思うが、久嗣に身を任せていればいい」 「兄上ッ!」  耳まで赤くして怒鳴る近貞に 「赤鬼の機嫌を損ねきるまえに、退散をしようか」  機嫌よく笑い声を立てながら、騒ぐ人々に声を掛けに行く近盛様は、最初の印象よりもずっと柔らかな人なのではないかと感じて、ほっとする。このように体中から喜びや楽しみをあふれさせることの出来る、武家の生活は今よりもずっと自由でいられるような気がした。 「近貞」 「――う」  羞恥を唇で堪える近貞の手を、そっと掴む。顔を寄せて耳元で 「今宵は、いいえ……これから末永く、いつまでも可愛がってくださいませね」  ささやけば、赤い顔を更に赤くした近貞が、力強く頷いた。  目の端に、萩が良い人と寄り添っているのが見えた。幸せそうなほほえみに、私も同じような顔をしているのだろうかと、確かめたくなる。 「近貞」 「うん?」  まっすぐに、近貞の目の中の私を見つめる。萩に負けないくらい顔を輝かせている私がいた。 「新月のかぐやは、地上のウサギの矢に射止められました」 「俺は、ウサギか」 「はい」 「ふうむ」  少し考えるようなそぶりをしてから、手を握り返してきた近貞の顔は満月よりもずっと、きらきらと輝いている。 「ウサギは月に住まうもの。俺がかぐや殿を求めるのは、当然の事だったのだな」  声なく頷けば、私の視界は近貞に埋め尽くされる。柔らかく唇を押しつぶされて、私は初めて愛おしいと思った方の、妻となった。
スキ!
スキ!
スキ!
スキ!
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!

この小説を読んだ人におすすめの作品

オフィスで、家で、そしてホテルで。付きまとう性悪男から貞操を守り抜く処女の物語。
13
7
2
1
9
連載中/50話/52,135文字/179
2018年2月1日
美しい声で啼く鳥、ナイチンゲールが美女に姿を変えて……。
完結済/8話/9,178文字/38
2017年10月19日
「あなたのしたことは、れっきとした触法行為です!」……白雪姫は、ツワモノだった。
2
完結済/1話/9,991文字/99
2017年11月5日
職場の人間関係に疲れ、田舎町に療養に行った先で初恋の人と再会し――
完結済/21話/110,701文字/32
2018年7月1日
絶縁を告げた相手に監禁される話。
完結済/9話/49,331文字
2020年2月12日
亡夫の愛人の息子を引き取ったら知らない男に夫が恨まれていたので復讐に巻き込まれる話。
1
連載中/2話/16,490文字
12月4日