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第74話

「俺の心には、見えぬはずの朔の月が、この満月のように膨らみきっている」 「その月のかけらを、私に与え続けてくれるのでしょう?」  見つめ合い、微笑みあって酒を口に含む。すれば目出度い目出度いと酒の入った者たちが庭先に躍り出て、祝いの舞を披露し始めた。その舞に次々と人々が参加して、でたらめな音頭が飛び交い始める。身分の上下など関係なく、集まった人々が手を叩き笑い声を上げ、楽しんでいる。 「楽しいな」 「はい」  体中から喜びと楽しさがあふれ出る。 「良かった」 「――え?」 「いや。武家はこのように騒ぎ立てたりすることがある。なれど、その――公家の方々はこのような宴を行わぬだろう。迎え入れ、武家の気質が肌に合わぬと言われれば、いかにしようかと案じていたが、これを楽しく思うてくれるのならば、大丈夫だと安堵した」 「まぁ」 「すぐに、かぐや殿の居室を整えさせる。それまでは今少し、こちらで待ってもらえるか」 「支度が整うまで、おまえもこちらで過ごせばいい」  瓶子(へいし)を手にした近盛様が現れて、近貞の盃へ酒を注ぐ。 「婚儀の後、早々に離れて暮らすなど失礼だろう。父上には、俺から伝えておく。三日もあれば、支度は整うだろう。その間に、公家式の婚儀の作法も行ってしまえばいい」  にやりと口の端を歪めた近盛様が、意味深な笑みを私に向ける。――公家式の婚儀の作法。三日続けて忍び入り共に朝を迎え、三日夜の餅をいただき別れ、後朝(きぬぎぬ)の歌を送りあう。 「今宵から、三日。ゆっくりと睦みあうがいい」 「なっ、ぁ、あう」  真っ赤になってしまった近貞に、からかう目を向けた近盛様が控えている久嗣に顔を向ける。 「姫君をどのように扱うか、近貞に任せておいては子どもと変わらぬままだろうから、手ほどきをして朔姫に恥をかかせぬように、頼むぞ」 「言われなくとも」 「そうだったな」 「兄上! そのような話を今せずとも」 「今しなくて、いつするんだ」
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