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第69話

 武藤家より送られた衣を着て人々の前に現れると、どよめきが起こった。そこここから美しいなんて声が聞こえて、悪い気分じゃない。多くの見物客がいるという事で、詰めかけた公達や物見遊山として現れた姫たちの衣装もすばらしく、それを見るだけでも面白いと里の者たちが集まり、彼らを目当ての物売りや芸を見せる者も集まって、大きな祭りの様相になっている。  とりしきる係りを任された萩の良い人が、緊張の面持ちで大きな太鼓を打ち鳴らせば、いよいよ始まると人々は口をつぐみ、息を潜めて目を輝かせた。 「それでは、今より、これこそが、月のしずくと、思いきわめたものを、お持ちくだされ!」  短く、声を張って言い放つ。  誰が言いだしたわけでもないのに、これぞという品を持ってきた方々は行儀よく並んでいた。その列の先頭の公達が、従者二人に布をかぶせた品を持たせて進んできた。萩が、威厳たっぷりに庭に用意をされた台座へ置くように指示をする。  従者二人が台座へ品を置くと、公達は自信満々の顔で胸の前に右手を添え一礼をした。 「かぐや姫が月のかけらを望んだのは、故郷を思ってのことと推察いたしました」  だから、月を偲ぶことのできるものを用意したのだと、公達は言う。 「どうぞ、お納めください」  さっと布が取り払われ、現れたものに 「おお――」 「なんと」  どよめきと、ため息が起こった。  台座には、月を望むウサギの彫り物が施された見事な鏡が置いてある。かがり火にきらめくそれは、光のかけらを集めているのだけれど。 「姫様が望むものは、それではありません」  きっぱりと、萩が告げた。  その次は、サンゴを磨き真珠をあしらったもの。その次は、螺鈿細工の見事な櫛。その次も、そのまた次も螺鈿細工のものが続く。品や装飾の形は違えども、螺鈿細工が続くのに飽きてきたころ、右大臣様の息子で自信家の朽木和正様が、誰も連れずに現れた。 「このような催しをせずとも、私の心は変わりなく貴女を思い続けるというのに。様々な流言に惑わされ、私の真心を疑い、お返事もいただけていなかったのでしょう。この心に偽りのないことを認めて頂き、是非に我が妻となっていただきたい」  さっと優美に扇を広げて指示した先から、美男ばかりを担ぎ手としている輿が現れた。それには竹取物語の絵巻が彫られていて、見事としか言いようが無い。見物の者たちも、後方で順番を待っている公達らも目を見張り、ため息をこぼした。
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