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第65話

 ぽかんとして、あきれたように繰り返した萩は、私が上機嫌なことに頬を膨らませた。膨らんだ頬をつついて顔を寄せ、萩のおかげで妙案が思いついたのよと打ち明ける。  そう、萩が今朝、日のかけらが――とつぶやいて、夢の中の月が白く輝き、水面をきらめかせていたことを思いだした。そこから、見事な満月に思わず見えぬ弓を引いてしまった観月の宴を思い出し、矢が届いて弾けた姿を心に描いたきらめく心地が浮かび上がり、そうしてひらめいた難題は、月のかけらを届けてくれた方の妻となる、だった。  あの夜、私が月を射た夜に、同じように月に向かって弓を引いたと近貞は言った。  新月の宴の時に、弓を引く近貞の心と私の心は重なった。  だとすれば、あの宴の時に月へ矢を射て月のかけらが弾けたことを、近貞も感じたんじゃないか。それこそが、月のかけらを私に届けるということだと気付いてくれるんじゃないか。そう考えたのだと告げれば、両手を頬に添えた萩が、うっとりと目を細めた。 「なんと、(みやび)な」 「近貞に、通じればいいけれど」 「お教え差し上げないのですか」 「教えたら、不平等でしょう?」 「ですが……」 「信じてみるわ。外れたり、別の方が思いついてしまった場合は、仕方ないわね」 「そんな」 「誰も思いつかなかったら、行かず後家になるわ」  不満そうな萩に、きっと大丈夫だからと頷いて見せる。  (うつつ)の竹取物語は驚くほどの速さで人々の間に広まっていったようで、別邸の周りには物見高い人たちが多く集まり、外に出ることが出来なくなった。庭の見える場所に座っていると、どうやってか塀の上に頭を出した人や、木に登った人たちが私を見て色々な事をささやきあっているのが見える。 「どうにも、落ち着きませんわねぇ」 「そう? 私は少し面白いわ」  陛下の寵愛を受ける美貌の姉と、その妹。それだけでも話のタネになるというのに、新月を意味する朔の名を持つ妹が、かぐや姫よろしく求める公達に難題を示したとなれば、話題になって当然と言えば当然。こうなれば、うかつに忍び入ることも出来ないし、文を届けてくることも出来ない。代わりに、近貞と会えなくなってしまったけれど。 「それにしても、想像以上ね」  父様に文を出した当日の昼過ぎであるのに、こんなに人が集まっているなんて。 「明日はもっと、増えるでしょうねぇ」
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