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第64話

 声を弾ませ手を握ると、勢いに驚いた萩が仰け反った。 「は、はいっ」 「ありがとう!」  意味も分からず目を白黒とさせる萩を見つめ、私は父様へ思いついたことを願う文の内容を考え始めた。  ――――  父様  こちらへ移り、心安く落ち着き木々の清涼なる空気に包まれて、具合も大分と落ち着いてまいりました。  こちらへ参ってからも、熱心に文をお送りくださる方々がいらっしゃり、私が誰の文にも返事をせぬ冷たく気位の高い姫だと言われていることを、よくよく考えてみました。  心を動かされぬ文に返事を書くのは、勘違いの期待を起こす元すらも断ち切るつもりでおりましたけれど、このまま誰にも何も言わぬままでは非礼かと思い、朔という月にちなんだ名をいただいておりますので、なよ竹のかぐや姫のごとく珍しかな品を求め、それを下さった方を身分の関係なく、我が夫といたしたいと存じております。  次の観月の夜。この別邸にて私の望むものだと思われるものを手にした方を招き、見事に当てた方を夫として定めたいと思うております。  どうぞ、私の望みを聞き届けてくださいますよう、お願い申し上げます。  新月のかぐや 朔  ――――  父様は私の文を読んでから、すぐさまに行動を起してくれたみたい。今日も馬の背に揺られて小川のほとりで近貞と久嗣と共にのんびりとすごし、戻ってこれば別邸の周囲が何やら騒がしくなっていた。私が馬に乗って戻ってくるのを見て、これが、とか、おお、なんて声が上がる。何が起こっているのかわからない近貞と久嗣は妙な顔をして、笑いをこらえている私を見た。 「かぐや姫の評判を聞いて、多くの人がつめかけました、とさ」  少しおどけて言ってみる。 「評判?」 「かぐやちゃんのことを、そう呼ぶのは近貞様と俺様だけだろ」  小声で言ってくるのに含み笑いを浮かべ、出迎えてくれた物言いたげな萩と共に部屋に戻る。戻った瞬間に、これはいったいどういう事なのかと問われ、父様への文の内容を打ち明けた。 「まぁ……、まぁ」
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