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第60話

 別邸に戻り、門をくぐり、萩に迎えられて部屋に戻れば、野山のようだった庭は綺麗に草が刈り取られていた。私が出かけている間に、驚かせようと思って急ぎ作業をさせたのだと胸を張る萩に、ごくろうさまと声をかけ、日の当たる場所へ座り、庭を眺める。  すっきりとしてしまった庭は、大小の岩が美しく並べられ、その中に池があった。猫の子が住まうほどの大きさの東屋(あずまや)が池の中腹に建てられていて、こちら側から小さな橋がかけられている。 「睡蓮でもあれば、もっと良い(おもむき)となるのでしょうけれどねぇ」  私の少し後ろに控えて座る萩の言葉に、そうねと上の空で答える。  綺麗に整えられた庭。  野山のようだった庭は、手入れの無かった分、傾いたままの燈籠があったりして、まだ整いきれてはいないけれど公家好みの、観月の宴を催しても恥ずかしく無い作りになっていた。  あの、ちいさな池に月が映り込んだ姿を、小さな東屋や橋と共に眺めるのは、きっと素晴らしいのだろうけれど、近貞と私が楽しむことは控えなければいけない。そう思うと、野山のようだった庭のままで良かったんじゃないかしら、なんて考えてしまう。――心の弓で射た赤い花も、取り去られてしまっている。  それがなんだかさみしくて、吐息が漏れた。 「ねぇ、萩」 「はい」 「私は、いつまでここに居られるのかしら」 「それは……」 「いずれは、戻らなくてはならないでしょう? 萩だって、一人では大変だし寂しいんじゃない」  振り向けば、ゆるくかぶりを振られた。 「里の者たちの出入りもあり、皆よくしてくれますし、武門の男たちは乱暴で礼儀もわきまえぬ者ばかりかと思いましたが、言葉遣いは乱暴でも、気の良い者たちばかりです。何の苦労もございません。――それに」  ふっと目を伏せてはにかんだ萩に、ああと納得する。ここには、萩が想いを通わせる人がいるのだったわ。 「姫様も、あの方とお会いできますでしょう?」 「――うん」  思うよりも声が沈んでしまった。萩が膝を進めて、気遣わしげに顔を覗き込んでくる。 「何か、ございましたか」
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