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第57話

 ぷん、と拗ねて見せる久嗣に、近貞が慌てて機嫌を取ろうとするのだけれど、良い慰めが思いつかなかったらしく、しゅんとしてしまった。 「――すまん」  叱られた小さな子どものようで、思わず吹き出す。 「何を、笑われる」 「だって……近貞ったら」  くすくす笑っていると、久嗣も声を立てて笑いだした。そこで、近貞はからかわれたと気付いたらしい。むうっとふくれて菓子を乱暴に掴み、口に放り込んだ。その姿もなんだか愛らしくて、幸せで平穏な笑みがあふれてくるままに笑い続けていると、ふと真面目な顔になった久嗣が、どうするのかと聞いてきた。 「どうする、とは――」  首をかしげた近貞に、兄君のことだと答えた久嗣が 「かぐやちゃんに、通わせるなんてことは言わないよね」 「当たり前だ。いくら兄上とて、かぐや殿を譲り渡す気は無い」 「それじゃあ、どうするの」 「正直に、申し上げる」 「正直にって――?」 「かぐや殿と俺が、その……こ、恋仲であるからと」 「諦めろって言われたら? 御家(おんけ)の為に、曽我の姫を――陛下の寵愛を受ける姫を姉に持つ朔姫を諦めろって言われるかも、しんないぜ」  ぐ、と言葉に詰まった近貞が 「それでも、かぐや殿は俺の妻とする」 「先に、婚姻しましたって宣言しちゃうって事?」  頷いた近貞が、強い瞳で私を見つめた。 「誰にはばかることなく、心安らかに俺の妻として過ごしていただきたい」 「――近貞」  武家の暮らしがどんなものかはわからないけれど、近貞とならきっと、平気だと思えた。 「二人で確信しあうのはいいけどさ、こっちの味方は俺様と萩って女房だけなんだぜ」 「父様は、きっと私の気持ちを尊重して下さるわ」 「うちの頭領が本気になったら、そんなもの、どうとでもしちまうって」  武藤家の頭領様の姿が脳裏に浮かぶ。みっしりとした体躯の頭領様は、温和そうに見えたけれども、父様なんて簡単にひねりつぶせそうにたくましかった。一代で武藤家を大きくし、武力と財力を駆使して方々に手を尽くしているという話を思い出して、身震いをする。近貞の様子を伺えば、難しい顔をして何か考え込むように腕を組んでいた。
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