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第55話

 時折、ふわりと風が頬を過ぎて心地よく、日の光もやわらかくて気持ちがいい。馬の頭をこんなに間近で見る事なんてなかったから、不思議な気持ちで手を伸ばし、(たてがみ)を撫でた。 「この先に、小川がある。そこで少し、休もう」 「はい」  ぽくぽくと進んでいくと、草原に抜けた。そこに布が敷かれていて、久嗣が座っている。まっすぐに馬を進めた近貞は先に降り、私に両腕を伸ばしてくる。馬の背を滑るように下りて抱き留められ、草を踏んだ。 「馬の乗り心地は、どうだった?」  たき火をして茶の用意をしている久嗣に問われ 「面白かったわ」  答えれば 「それは良かった」  言いながら、敷物の上に誘われた。近貞にも促され、二人の間に座る。すっと差し出した重箱を久嗣が開けて、色とりどりの菓子が現れた。 「これ、どうして……」  こんな山里の別邸に、これほどの菓子を作れるものがいるとは思えない。驚く私に、久嗣が少し胸を張って 「俺様、早駆けは得意中の得意なんだよね」  茶をたててくれる。 「わざわざ……?」 「愛する、かぐやちゃんの為だからねぇ」  にこにことする久嗣の言葉に、はっと口吸いをされかけたことを思いだす。何か返事をした方がいいのだろうかと思いつつ、言葉が何も見つからない。 「久嗣は、俺だからな」  さもあろう、と頷く近貞に首をかしげて目を向ける。 「久嗣の心根は、常に俺と共に有る」  それほど近くで、すごしてきていると言う事なのね。なんだか、うらやましくて、うらめしい。 「まったく。近貞様ってば鈍いんだから、俺様が気付かせてあげないと、今回のことだってどうなっていたか――後で絶対、泣きを見ていたぜ」 「ぬぅ……まさしく。久嗣には、感謝をせねばならんな」  それって、近貞の想いを久嗣が先に気付いていて、自覚をさせたと言う事なのかしら。
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