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第45話

 次の瞬間、天地がひっくり返ったような気がして目を閉じた。背中に褥の感触と、たくましい腕がある。耳に柔らかなものが触れて 「俺様は、近貞様の陰なんだよ」  低い声が差しこまれた。 「だから、近貞様の腕だと思っていればいい」  しゅるしゅると衣擦れの音がして、開こうとした目の上に何かが被せられた。頭の後ろで縛られて、帯か何かだろうとわかる。肌の上を布が滑り、代わりにあたたかなものが触れてきて 「ぁ…………」  素肌に、手を乗せられているのだと分かった。 「久嗣……?」 「今は、近貞様だと思って――」  唇に、指をあてられた。近貞だと思ってと言われたって 「かぐや殿」  びく、と背筋が跳ねる。それは、まぎれも無い近貞の声だった。 「……なん、で」 「かぐや殿」  手のひらが肌の上を滑っていく。耳に注ぎ込まれる声は、まぎれもなく近貞のものなのに、私はそれが近貞じゃないことを知っている。 「……かぐや殿」 「――いや」  小さくつぶやけば、胸を探っていた手が止まった。抱き上げられ、目隠しを外されて見えたものは、まっすぐな久嗣のまなざしだった。 「――ッ」  月光に照らされたそれが、あまりにも澄んでいて息をのむ。澄みすぎて、何も映していない水鏡のような久嗣の目の中に、私がいる。 「かぐやちゃん」  声は、久嗣のものに戻っていた。 「近貞様と、添いたいと思う?」  目を見つめたまま頷くと、本心かどうかを探るように私の目の奥を観察した久嗣が、目尻を和らげた。 「じゃあ、行こうか」  抱き上げられ、首にしがみついた。何処になんて、聞かない。だって、近貞の所に決まっているんだもの。
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