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第44話

「喉が渇いたでしょう。お茶と、お菓子をいただきましょう。ね、姫様」 「――うん」  穏やかな日の光を受けながら、私と萩は花のような菓子をいただいたのだけれど――何の味も、感じられなかった。 ◇◆◇  明かり窓から月に目を向けて、目を離せなくなって、どれくらい経ったんだろう。人の気配を感じたけれど、そのまま月を見続けていたら 「かぐやちゃん」  そっと、声を掛けられた。顔を向ければ、半分は闇の中に、半分は月明かりに照らされた久嗣がいた。何の感情も浮かばせていないような、いろんな感情がありすぎてすべてが消えてしまったような顔から、目を逸らす。再び月を見つめていると、横に久嗣が座った。  頬に、視線を感じる。  顔を向けて、今度は久嗣の目を、久嗣の目に映る私を、見つめた。心の中がからっぽで……。本当に、何も無くて――。弓を手にしている時とは質の違う、ぶわんとして形無く、風に舞う木の葉ほどの強さすらも失っている私の顔は、白く塗りつぶされた能面のようだった。 「かぐやちゃん」  久嗣の目の中の、私が揺れた。 「……弓を、引いたの」 「え」  両方の手のひらを見つめて、握りしめる。 「昼間に、心の中で満月を浮かべて弓を引いて、目を開けると近貞がいたの」  草の中にたたずんでいた姿は、とてもきれいで 「私の射た矢が届いたと言って、胸に手を当ててくれたのだと思ったのに」  私の、勝手な願望からくる認識だった。 「私は、近貞の兄君に求められているんですってね」  じゃあ、近貞の胸に届いたものは、何だったんだろう。 「まだ、なるって決まったわけじゃないし、受け入れるかどうかは、かぐやちゃん次第だろ」  久嗣は、どう思っているんだろう。 「ねぇ」  顔を見ないまま、手を伸ばした。 「久嗣はまだ、私に口吸いをしたいと思っているの――?」
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