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第43話
どういうこと?
私、武藤家の誰かに文を貰った記憶は無いし、父様からそんな話はされていない。
体中から血の気が引いて、息苦しくなる。にこにことしたままの近貞は、いずれ兄より文が届くので、返書を送ってほしいと言って来た。
「――ッ!」
くやしくて、かなしくて、苦しくて、奥歯を噛みしめて立ち上がる。驚く近貞を睨み付け、几帳の影に入った。
「かぐや殿――? い、いかがした」
うろたえる近貞の声も聞きたくなくて、耳をふさぐ。
「まぁ。いかがなされました」
「おお、女房殿」
近貞が弱りきった声で、部屋に現れた萩に話しかけている。何事があったのかと、萩が傍に来た。
「姫様。近貞様がお持ち下さった菓子と、お茶を用意いたしましたよ」
優しく語りかけてくる声は、私が照れて隠れてしまったとでも思っていたようで
「ま!」
唇を噛みしめている私を見た萩は驚き、さっと立ち上がったかと思うと毅然とした声で告げた。
「姫様のご容体、急に悪 しくなられたようですので、申し訳ございませんがお引き取り下さいませ」
「容体が――? かぐや……いや、朔姫様――」
「とにかく、お引き取り下さい」
追い立てるような萩の声に、衣擦れの音が続いた。足音が遠ざかり、すっかり聞こえなくなってから、萩が傍に戻ってくる。
「何があったか、お聞かせくださいませ」
甘い菓子とお茶の香り。近貞が、初めて会った日に持たせてくれたものと同じものが、目の前にある。
「――私は、近貞の兄上に求められているんですって」
言った瞬間、頬が濡れた。胸が震えて苦しくて、萩の肩に頭を乗せる。
「私は、近貞の姉となる身だから、警護に来て――っ」
最後まで言えなかった私の背を、萩が優しく撫でてくれる。泣きじゃくる私を、萩は無言で受け止め続けてくれた。
そうして、萩の襟をさんざんに濡らした後、春日 のような顔で萩が言った。
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