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第33話

「どうせ、来てもらうつもりでいるのですから、さっさと告げてしまえばいいんじゃありませんか」 「でも、久嗣はいつ来るのか、わからないのよ」  とりあえず具合の悪いふりをしておいて、その問題は考えておきましょうという話になった。  萩は、何かあった時の為という名目で、私の褥と几帳を隔てた隣に眠ることにして細々(こまごま)と計画について話し合った。久嗣は、あの夜から姿を見せない。  陰陽師役をどうしようかという問題が解決したのは、それから三日の後の事だった。 「良い相手を、みつけました」  にんまりとした萩が、実家へ文を送り従弟に協力を願ったのだと言う。萩の実家はたしか、中流の家柄だったはず。陰陽師のふりをする衣装などは用意できるだろうし、上手に人払いをして誰も寄せ付けないようにし、適当に祓いをした格好をつけて、別荘へ移る理由づけとなることを言ってもらえればいい。 「大切な姫様の為ですから、使えるものは使わなければ。ああ、ご安心ください。理由は伏せて、聞かないようにと申しつけてありますし、口が堅いと言うか、無口な者ですから秘密が漏れることはありません」  萩が自信満々に言うから、私も安心して任せることにした。  そうして現れた萩の従弟は、厳格そのものの雰囲気で、高力な陰陽師に見えた。人払いをして、祈祷をしているふりをして、屋敷の者が送り出す時に「野山の清涼な……」と、用意をしていた言葉を置いて帰ってもらったのだけれど、低く落ち着いた声音で静かに告げたものだから、聞いた者は信じきって、すぐさまどこか良い場所を、という話になった。  そこに、萩がさも今ふと思い出したように、幼少のころに姫様と行った別邸があったようなとつぶやき、すぐさまそこへ移動をと、驚くほどすべらかに物事が進んで行った。  この計画で一番肝心なことは、屋敷の中でついてくるのは萩のみにする、ということ。そして屋敷の警護は、武門の方に――武藤家の者をつけてもらえるようにすると言う事。そうすれば、近貞や久嗣が現れやすいかもしれない。うまくいけば、どちらかが警護のために来るかもしれない。そうなれば、ひっそりと語り合って弓を手にする機会を相談するなり、別邸にいる間に設けてしまうなりすることができる。  そうこうしているうちに準備が進み、父様が様子を見に来て、そこはさすがに萩も押しとどめきれなかったらしく、几帳越しに具合の悪いふりをして話をする事になった。別邸に送り出す前に、話をしておきたいと心配顔で言われたら、断りきれないわよね。私も、優しい父様を騙していることに罪悪感があったし、どのくらい別邸にいるのかも決めていなかったから、出立の準備が整うにつれて寂しさが湧き上がってきていたし。
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