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第31話

「叶うかもしれないじゃないですか」  唇をきつく引き結んで、手を握りしめる。  叶うかもしれない。  叶わないかもしれない。  ぐらぐらと揺れる心の中で、はっきりと浮かび上がる思いがあった。 「近貞と、弓を――」  呼吸を重ね、弓と一体となり、的への道を繋げる。それを、共に行いたい。けれど、叶うとしても人目につくところでは、行えない。人の目が無く、ひっそりと――けれど、のびのびと弓を手に出来る所なんて――――。 「――あ」  脳裏に、閃く場所があった。 「萩」 「はい」  思ったよりも張りのある声が出て、萩はきりりと眉を引き締める。 「お願いがあるの」  思いついたことは、とてもずるいことかもしれない。近貞に、あきれられるかもしれない。けれど 「耳を貸して」  そっと膝を進めてきた萩に、耳打ちをする。話を聞いていた萩が手を叩いて 「やりましょう!」  うきうきと応えてくれて、心強さに頷いた。 「私の味方は、萩だけよ」 「どのようなことがあろうとも、この萩は姫様の幸せのために行動いたします」  任せてくださいと胸を張る萩と、思いついた計画を実行に移すための相談を始めた。 ◇◆◇  草が生え放題に生えている、野山のような庭を眺めながら、私はほうっと息を吐いた。 「ああ、もう。どこもかしこも――。人が使わないと、すぐに家は朽ちてしまうのですね」  文句を言いながら、萩がやってきた。 「でも、思ったほどでは無くてよかったわ」 「まぁ、そうですけれど……」  不服そうな萩に笑いかけて、庭に目を向ける。 「この庭も、手入れをしなければいけませんね」 「あら――これはこれで風情があって、楽しいのではないかしら」
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