30 / 75

第30話

 だからこそ、こうして何の気兼ねも無い文をやり取りすることが、出来ているのだと思う。さっき萩が言ったように、身分がわかってしまって、家柄の事や後ろ盾の事が気になってしまったら、今までのように振る舞えなくなるかもしれない。  まだ、たった半月のことだけれど、交わした文は八通のみだけれど、うんと深いつながりを感じている。けれど、たった半月の間の、八通のみのやりとりだから、あっけなく終わってしまう可能性だってある。  二人で黙り込んで、うつむく。ふと目の端に萩が用意してきた朝餉の膳が見えて 「おなかが空いていたら、何も良い知恵なんて浮かばないわよね」  ことさら元気な声になるように言って、膳の前に座りなおして食べ始める。こういう時でも、きっちり美味しく食べられる私を、褒めてあげたい。萩は、なんとも言えない顔をして私を眺めていたけれど、食べ終わり、膳を片付けて弓の準備をしようと立ち上がったところで、顔を輝かせた。 「姫様!」  声を弾ませた萩が、しゃがみ込んで顔を近づけてきた。まばたく私の手を取って、いいことを思いつきましたと萩が言う。 「久嗣の後を、私が追えばよいのです」 「ええっ――」  萩は、妙案だと満悦だけれど、闇の中からにじみ出るように現れる久嗣を追えるとは思えない。 「だめよ。そんな危険な事」  それに、これが久嗣でなく足の遅い下男が使いだったとしても、夜に女を一人で歩かせるなんて出来やしない。何があるか、わからないんだから。 「ですが――」 「萩に万一の事があったら、私は気を病みすぎて寝込んだ上に、そのまま露と消えてしまうわ」 「……姫様。ですが」 「だめよ。絶対にだめ!」  強く念を押せば、しぶしぶながら萩が頷く。 「けれど、このままでは何も変わらぬまま、想いを伝える事すらかなわぬままに、近貞様は誰かと結ばれてしまうやもしれませんよ」  ずきりと、胸が痛んだ。 「想いを告げても、叶うかどうかはわからないじゃない」  声が、掠れて震える。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!