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第29話

 腕を組み、難しい顔をしてしまった萩に、恐々こわごわと問う。眉間にしわを寄せたまま 「お父君は武門の方であろうと、何も問題が無いと申されるでしょう。問題は、この近貞様ですわね」  唸るように言った。 「身分を深く重んじるようでも、後ろ盾を強く望むようでも、いけません。どちらも姫様に対して、遠慮をすることになっていまいます」 「萩――。まだ、近貞が私の事をどう思っているのかすら、わからないのに…………」 「いいえ、わかります。この文は、姫様を心安い相手と思っている文面です。近貞様の御心は、姫様に在りますとも」  自信満々な萩の言葉に、頬が熱くなった。 「ま。姫様ったら、おかわいらしゅうございますこと」 「からかわないでちょうだい」  ぷい、と顔をそむけて、胸に手を添える。近貞が、本当に萩の言うように、私に想いをかけてくれていたなら――。そう思うと、鼓動がやけに耳に響いて、むずがゆくてあたたかなものが、体中に広がっていく。 「共に、弓を競われる夫婦生活が出来れば、姫様にとってこれ以上は無いお相手ですわねぇ」  本当――。もしも近貞が私に通ってくれて、夫婦の契りを交わすことが出来れば、それはきっと私にとっては何の窮屈も感じられない、幸せな生活になるはず。――けれど。 「近貞が、変に思われないかしら」  父様も、私が弓を愛好していると世に知られたら、肩身の狭い思いをするのではないかしら。萩だって、そんなことを口にしては、遠回しに止めるように言ってくるのに。 「武門の妻となるのなら、おかしなことはありませんよ。――多分」  萩も、武門の家柄がどのような作法を持っているのかを知らないから、そんなことを言うのだろうけれど、出仕をすれば公家と同じように振る舞わなければならないから、やっぱり弓をする姫は妙だと思う。自分でも、弓を好んでいることは珍しいことだと思うもの。でも、そうやって私を応援しようとしてくれるのは嬉しいから、ありがとうとつぶやいた。 「しかし、姫様。相手が誰かもわからず、こうして文を交わすのも久嗣という者が来なければ出来ないというのは、いささか不便ですわね」 「互いの身分を隠したままで、っていう話だったから」
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