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第28話

 近貞に良い縁談があって、私と文を交わしていることで、そちらをおろそかにするかもしれないと恐れたとか。  ぎゅっと胸が絞られて、苦しさに体を折った。――あり得ない事じゃ無い。近貞の今後の出世を思うなら、通う姫の父親は有力なほうがいい。私は、家柄だけは立派だけれど、父様が有力だとは言い難い。後ろ盾となるほどの力も財力も、無い。  まだ、近貞が私を想ってくれているなんて、決まっていないのに――単なる自分の想像だってわかっているのに、息苦しくて鼻の奥がツンとして、涙がこぼれはじめた。  ああ、私……どうしようもなく近貞の事が、好きなんだ――。  自覚したくなかった。  自覚して良かった。  両方の気持ちがせめぎ合って、胸をより強く絞りあげて、絞られるごとに涙があふれて、萩が戻って来たことにも気づかないほど、私は近貞の文を握りしめて泣いていた。 「まぁ、姫様!」  慌てた声が聞こえて、肩を掴まれ抱き起されて、私は萩の胸に顔をうずめて思い切り泣いた。  寝不足で、頭が痛い上に泣きすぎてズキズキする頭には、どうしようって言葉だけが渦巻いている。無言で私を抱きしめて、萩が背中をさすってくれる。私はそのまま泣き続け、泣きやむまで萩は背中をさすり続けてくれて、しゃくりあげながら涙を拭くころには、握りしめすぎた文はくしゃくしゃになっていた。 「何が、あったのですか」  優しく萩が聞いてくれたけれど、口を開けばまた泣いてしまいそうで、私は手にしていた文を萩に渡し、他の文がある箱を指さした。萩は全ての文を読み、深く頷いて 「この方が、お好きなのですね?」  確信をしながらの問いを、強い瞳で私に向けた。震えていた肩も落ち着き、深呼吸をした私が深く頷くと、表情を和らげた萩が「姫様らしいやりとりですこと」とつぶやく。  自分の中だけで仕舞い込まなくてもいいことに、なんだかほっとした。色気も何もない、ただ日常ごとを書いただけの、たわいない内容の文を丁寧に箱にしまった萩に、何もかもを打ち明けよう。私の気持ちを、しっかりと受け止めて話を聞いてくれるはずよ。 「萩――あのね……」  膝を正して、文の内容から大体は察しているであろう萩に、順番に近貞との出会いから昨日までの事を――久嗣の昨夜の事は内緒にして、打ち明けた。 「どう、思う?」
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