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第27話

 けれど、それを自覚したからといって何かが変わるわけじゃない。お互いに――久嗣が私の事を告げていなければ――氏も素性もわからない、ただ弓の呼吸を合わせられるだけの相手。文はいつも近貞からで、私から何かを思っても送ることすらできない。  ――それに。  昨夜の久嗣の行動から、近貞の手紙を求める心と、久嗣と顔を合わせたくない気持ちとが混在している。からかうにしたって、ひどすぎる。それに、去り際のあの言葉――かぐや姫は自分を恋い慕う公達らに、珍しかな宝物を持ってこれば気持ちに応えると言った。それを引用したあの言葉は、どういう意味を持っていたのだろう。――久嗣は、どんな気持ちで私に接吻の真似事をしてきたんだろう。  抱き止められた時の、大きさとたくましさ、温もりを思い出して胸が高鳴る。でもそれは、(ふみ)の文字をなぞるときとは全く違う。激しくて、苦しくて熱いこれは、やわらかさのかけらも無くて――それなのに、不快じゃ無かったのはどうしてなんだろう。  もしかして、私は節操のない人間なのかしら。  父様は、母様のみを愛し抜いているけれど、世の公達は正妻となる方の他にも、これぞという姫の所に通うことが普通だっていうことぐらい、色恋に(うと)い私でも知っている。姫だって、夫以外の方を通わせる人がいることも、知っている。姫同士のお茶会でその話を知った時に、二人の魅力的な公達から文を貰っているらしい姫が、どちらにも返事が出来ずに迷っていると言うのに、どちらも通わせて心の形が添う方へ最終的な答えを出せばいいんじゃないかと応える姫がいた。  あれはたしか、秋田の椿姫じゃなかったかしら。  華やかな容色で、何かの宴が催されれば、常に傍には複数の公達が(はべ)る恋多き椿姫の言葉に、私はどうにも納得が出来かねるのよね。父様がそうだからなのかもしれないけれど、一人の男性に深く愛されたいっていうか、なんていうか……。その後は、恋多き魅力的な公達と、誠実で深い愛をくれる公達と、どちらがいいかしらなんて架空の恋物語を語り合って、盛り上がっていたっけ。  私も、まぁ、興味が全くないわけじゃないから会話には入らないままに、聞くともなしに話を聞いていたけれど、やっぱり椿姫の意見に賛同は出来なくって、帰ってから萩に愚痴を言ったっけ。  椿姫の、好きな人がいても他の素敵な方に心を浮き立たせてしまうことは、仕方のないことだっていう声を思い出して、ため息が漏れた。今の私は、そういうことなんだろうか。だとしたら、もしかしたら私が心を浮き立たせているのは近貞で、本当は久嗣を知らないうちに好きになっていた、なんてこともありうるんじゃないかと思えてきて、昨夜の久嗣の言動に腹が立ってきた。  私を惑わすようなことをして、どういうつもりなのかしら。  ぷくっとひとりで膨れてみて、私が近貞に恋心を抱いていることを、私が気付く前に久嗣が気付いてしまっていたら、と浮かんだ事に眉根を寄せる。もし、そうだとしたら……それをあきらめさせるために、自分に気を向かせようとしたっていうことも考えられなくも無いんじゃない――?
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