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第24話

「屋敷の誰かに、忍んできている者がいるんじゃないの」  萩が聞いた物音の正体が久嗣なら、その相手は私なんだけど。まさか私に忍んでくる相手がいるとは思いもしない萩は、年頃の者もおりますものねと得心顔でうなずいた。まるで自分がそうでは無いみたい。 「萩には、そういう相手はいないの?」  なんとなく水を向けてみれば 「そんな! 姫様を差し置いて私に通おうとする殿方が、いらっしゃるわけはありませんよ」  さっと頬を赤く染めて、両手を大きく顔の前で振ってみせる。これは、想う相手でもいるのかしら。 「私のことは、いいわよ。文をやりとりするような相手がいるのなら、遠慮しないで。なんなら、紹介してほしいくらいだわ」  気だるいから横になりながら言えば、ぷくっと頬を膨らませた萩が、そんな暇もありませんと肩をそびやかす。 「姫様が弓をなされる姿を、誰に見られることも無いように、気を配るのに精いっぱいです」 「萩が、恋しい相手と文をかわす暇も無いくらい、気を配る必要も無いじゃない」 「いいえ。姫様が誰にも通われないままであれば、困ります。世にきらめく公達からの文にも、いっかなお返事なさいませんし」 「自分をごまかさなければいけないようなような相手と、添い遂げようとは思わないわ。私が弓を好んでいると知っても、文をくれる殿方でないと」 「そのような方が、いらっしゃるといいのですけれどねぇ」  ほうっと息を吐く萩に、私が弓をしていることを知ってから文のやりとりをするようになった人がいるのよ、と心の中で話しかける。まぁ、色っぽいことは一切ない文だから、胸を張っては言えないし。何より武藤家に所縁のある武門の人、というだけで氏素性もわからない相手と文を交わしているだなんて知れば、萩は近貞が何者かを調べようとしそうだから、よけいに言えるわけが無い。  ――でも、まてよ。  近貞は知らないとはいえ、久嗣は私が誰かを知っているのよね。知っていて、昨夜のようなことをしてきたということは――――? 「――ッ」  どういうことなのか、と考え付く前に昨夜の久嗣を思い出して、顔に血が上った。思わず伏せた顔を、萩に見られてしまったのか、私の態度から察したのか、背中に声が下りてきた。
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