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第23話

「あらら。嫌われちゃったかな」  ちら、と横目で見れば、さほど困ってもいない様子で頬を掻いている。何を考えているのか、さっぱりわからない。 「かぐやちゃん。こっち向いて」  無視をして、体ごと背けた。あんなことをして、どうして平気な顔でいられるのかしら。こっちは、まだ鼓動が治まっていないというのに――。 「かぐやちゃん」  背後から引き寄せるように抱きしめられて、顔を覗き込まれる。膝の上に背を乗せる格好になって、間近に久嗣の顔があって 「っ、何……」 「接吻、しちゃおっか」 「――え」 「さっきは、わざと外したけどさ。ちゃんと唇を吸おうかなって、思ったんだけど」  ちょっとお菓子を分けてくれないかな、と言っているくらいの重さしかない声音に、腹が立った。 「ってぇ」  両手で頬をつぶすように叩き、腕が緩んだすきに起き上がる。 「くだらない冗談はやめて! 私、もう眠るから」  ぷん、と顎を突き出して言い捨ててから、几帳(きちょう)の裏にもどって(しとね)に横になる。掛け布を頭からかぶってじっとしていれば、ため息が聞こえて、紙をたたむ音が聞こえて、灯明が消えたのがわかった。  そうして、何もかもの気配が消えて、久嗣は音も無く帰ったのかしらと思いつつ、寝たふりをしていたら何かが私の上に覆いかぶさる気配がした。 「ほんと、難儀なお姫様だよね」  掛け布越しに、頭を撫でられる。そのままじっとしていたら、耳元で 「新月の姫君も、かぐや姫のように珍しかな物を求めて来い、と自分に焦がれる男に言うのかな」  ささやいて、離れて行った。  その夜、私はただの一睡もできず、久嗣の言葉を耳に反響させ、触れてきた手や唇を思い出し続けた。 ◇◆◇  頭はぼんやり重たいし、目は腫れぼったいし、最悪の顔をしている私を見て、萩は大慌て。すぐに医者か薬師(くすし)を、なんて慌てるから眠れなかっただけよと言えば、物の怪にでも邪魔をされたのかと言う。なんでそうなるの、と返せば最近、妙な物音が聞こえるのですなんて言ってくる。久嗣の気配を、萩は感じているのかしら。
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