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第22話

 そっと、吐息に乗せて呼ばれる。 「このまま、(さら)ってしまおうか」  ふわりと耳を噛まれて、耳裏を舐められて 「――ねぇ」  久嗣の唇が近づいてきて 「っ――!」  両手で、彼の口を押えてとどめた。硬く目を閉じているから、久嗣がどんな顔をしているのかわからない。ぴたりと動きを止めた久嗣が、次にどんな行動に出るのか、もし乱暴に奪われてしまったら――。  そんなことを思いながら身を震わせていたら 「ぶはっ」 「――え」  目を開けると、離れた久嗣がおなかを抱えて笑っていた。  ――え? 「あはは、もう――かぐやちゃんってば」  からかわれた――! 「っ、酷い」  起き上がって拳を振り上げると、あっさりと止められて胸の中に抱き止められた。 「あはは、ごめんごめん。あんまり可愛い顔をしているから、つい、ね。男の(さが)っていうの? わかるだろ」 「わかりません」  これ以上ないくらい不機嫌な顔をしてみせると、あははと笑った久嗣が誠実さのかけらも無い謝罪を繰り返す。耳に久嗣の胸があって、聞こえる鼓動が温かくて早くて、大きい気がするのは――抱き止められて、自分が妙にドキドキしているのは、きっと気のせい。驚かされて、安堵したから。ただ、それだけ。 「もう。返事を書くから、離して」 「はいはい」  ぱ、と両手を広げた久嗣の膝から下りて、落とされた掛け布を肩にかけなおす。なんだか色々と考えるのが面倒くさくなって、私は思うままをしたためた。  ――――  近貞様  弓を射る時に、自然と呼吸が重なりました。やはり、あの矢は貴方のものだったのだと知れて、安堵と共に悦びが湧き上がっています。是非、一度でも共に矢を射る機会があればと、強く願わずにはいられない時でした。  武藤の頭領様の弓は、たとえようもないくらい素晴らしい豪弓で、息をのみました。あのように、心を研ぎ澄ませることが出来るように、更なる精進を心に定めた夜でした。  かぐや  ――――  横から覗き読んでいた久嗣が、あきれたような息を吐く。顔を寄せられただけで身をこわばらせると 「今は、何もしないから」  こわがらなくていいよ、とささやかれた。今は、って――どういう事なんだろう。そうは思っても、聞く勇気が持てずに顔をそむける。
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