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第19話

 全員が、矢に手をかけて(つが)える。きりきりと弓がしなる。私の視界は近貞に埋め尽くされて、共に的を狙っているような心地になった。  近貞の目には、はっきりと的が見えている。的と自分を繋ぐ道が、見えている。  残音を絡ませながら、いっせいに矢が放たれる。小刻みに的を射ぬく音が響き、座に感歎のどよめきがおこった。  矢を放った面々は涼しい表情を崩すことなく、そろってこちらに顔を向けて頭を下げる。上がった瞳に――近貞の強い瞳に射抜かれたと、思った。 「おお、見事に矢が」 「……全員、的を射ておるのか」  家人が、暗闇から灯りの傍へ的を運んできた。頭領様の矢は他の矢より太く、まっすぐに的の芯を捉えていた。他に刺さっている矢の数と、若武者の数は同じ。  口々に彼らの事をほめそやす公達や、感心のため息を漏らす姫たちが、どの矢がどの若武者のものかと言い始めた。 「朔姫は、どの矢がどの若武者のものだと思われますか――?」  私には、近貞の矢だけが、はっきりと判別できた。  ――――  かぐや殿  いつか互いの腕をと言っていたが、先に俺の腕を見せることになってしまった。  お客人らが誰の矢がどれだと話しはじめた時、かぐや殿はまっすぐに一本の矢だけを見つめていたな。  かぐや殿には、俺の矢が見えていたのだと嬉しくなった。射る時に、俺の姿に自分の射る呼吸を合わせてくれたのだと、思えた。  次は、かぐや殿の射る姿を見ることが出来ればと思う。  近貞  ――――  ああ、やっぱり。  宴の後、屋敷に戻って眠ろうとする頃に、久嗣が忍んできた。あわてて掛け布を羽織って受け取った文を開き、あの矢は近貞のものだったのだと、射たときに互いの呼吸が重なっていたのだという、あやふやな確信が確固たるものとなって、安堵した。 「また、色気も何もない文面を書いて。――ちょっとくらい、情緒あふれる文章にするとか、歌を添えるとか、紙にこだわるとか、香を焚き染めてみるとか、どれか一つでもしてみたっていいと、思わない?」 「近貞らしくて、いんじゃないかしら」
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