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第18話

 きり、と弦が鳴る。さざめきあっていた声が治まり、無用な音が消えた。弓がしなる。十分に引き絞られて、矢に力が凝っていく。  ――今。  思った瞬間、矢が放たれた。 「おおっ」  声が上がる。的を射た音が、闇夜に響いたから。  ――なんて。  なんて美しいのだろう。  我知らず、胸元で指を組み合わせて握りしめていた。ドキドキと、胸が高鳴っているのを感じる。よどみも迷いも無く、まっすぐに的と自分を繋げた頭領様の姿に、ため息がこぼれた。  振り向いた頭領様が、私を見て研ぎ澄まされた雰囲気を和らげた――ように感じた。実際は、ここにいる皆に向けて、なんでしょうけれど。  久嗣に弓を返して、ぽんと頭領様が手を打てば、きらびやかな武者姿の若い男たちが現れた。  ――あ。  近貞の姿が、あった。  他の男たちと同じように、表情無く伏し目がちに頭領様の傍に控える姿は、私を抱えて部屋に運び、話をしてくれた時とは別人のように精悍で、たわいない文を書く人とは思えない様子に、似ているだけの別人なんじゃないかと思えた。 「我が一族郎党の、今宵招いた客人方と年のころの近い者たちの弓の姿も、ご覧いただこう。いずれは、どなたかの警護を仰せつかるやもしれぬしな」  席へ戻って衣を整えた頭領様のお言葉に、引き込まれるように時間を止めていた姫や公達らが、武者姿の若者たちへ目を向ける。武者たちはすでに弓を(たずさ)え、矢を背に負うていて、それぞれが一列に並び薄ぼんやりとした的に顔を向ける。 「あれは、藤堂様の傍に控えていた武者ではないか」 「あちらは、柏木様のお屋敷で見かけたことが」  そのような公達の声が、耳に届く。武家であるのだから、さまざまなところへ警護のために出ているのは当然のこと。その中から、弓の名手を今日の座興の為に呼び揃えたのかしら。――もし、そうだとすれば近貞の腕は、武藤家の同年の武者たちの中でも指折りの者ということになる。  最初にもらった文にあった、互いの腕を披露したいという文面を思い出す。私は、先に近貞の腕を知る。そう思うと、自然と背筋が伸びた。
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