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第17話

「読んで、くださっているのですね」  一応は目を通しているけれど、歯の浮くような言葉ばかりが並んでいて、返事に困るのよね。 「ああ――貴女から、一度も返事を頂けないので、文を届ける者が途中で捨ててしまったか、手元まで届けて頂けぬほどの粗相をしでかしたのかと、気をもんでいました」  自分が悪いとは、思わないのかしら。 「返事の来ない文を、それでも止めることが出来ずに送り続ける私の想いの深さを、どうか受け止めて頂きたい」  受け止められないから、返事を書いていないんでしょう。 「あちらこちらに咲き誇る花の中で、野の花ほどの私に想いをかけてくださっているなどとは、夢にも思えませぬ」 「手入れのされた大輪の花よりも、ひっそりと野に咲く気高く控えめな花をこそ、私は求めているのです」  ああ、そうですか。 「月の無い闇夜に咲く私には、強すぎる光に顔を向けることはできませぬ」  もう、いい加減にどこかへ行ってくれないかしら、と思ったところに、数人の家人(けにん)たちが木の枠を抱えて庭先に現れた。何が起こるのかと、皆の気が逸れる。 「星のかそけき灯りの中で、弓の腕を披露させていただこう」  ほんの座興よ、と武藤の頭領様が膝を打って立ち上がる。片袖を脱がれて現した肌は、絵物語で見た鬼のようにたくましくて、恥ずかしがりで控えめな柊の姫君までも、目も口も丸く開いて魅入っている。その視線に気づいた頭領様が姫に人懐こい顔を向けられて、はっとした姫はすぐに顔を逸らしたのだけれど、その頬に朱が差しているのは、殿方の肌をまじまじと見つめたという、はしたないことをした恥ずかしさだけじゃないって、すぐにわかった。  家人たちが手際よく木の枠に縄を繋げて、的を吊り下げていく。庭に降りた頭領様の傍に、大きな弓と矢を持った家人が現れた。その姿に、はっとする。――久嗣だ。  目が合って、さりげなく久嗣が笑いかけてくる。私も、そっと目配せをした。  久嗣から弓と矢を受けた頭領様は、左足の先をまっすぐに迷いなく的のある方へ向ける。 「――ぁ」  それだけで、わかった。  頭領様の姿は、宴席の灯りではっきりと見える。けれど、奥にしつらえられた的は、淡くぼんやりと暗闇の中に浮かんでいるだけで、目を凝らさなければ見えない。それなのに、頭領様にはしっかりと的の姿が見えている。的の中心が、見えている――。
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