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第16話

 呼ばれた公達たちは、互いに言葉を交わしあいつつ、姫の間をひらひらと舞っている。時折、武藤の頭領様へ酌をしに行ったりしているけれど、頭領様は彼らを皆、ご自身の御子であるかのように扱って、しだいに気を使って酌をしに行く人はいなくなった。にこにこと、皆の様子を眺めて手酌で盃を重ねている。 「今宵は、貴女のための宴だと、心を躍らせてまいりました」  そっと私にささやきかけてくる公達に、当たり障りのない笑みを浮かべる。朔――新月を指す名前の私を主役だと言って来たこの公達は、何度も目にしたことがある。たしか、御父上が右大臣でいらっしゃる――。 「朽木(くちき)和正(かずまさ)様、でしたわね」 「ああ、憶えてくださっていたのですね」  感極まったように、和正様が私の指先をそっと掴んだ。そりゃあ、覚えもするわよ。宴で顔を合わせるたびに、意味深な目を向けてくる、今を時めく出世頭。父君が右大臣であらせられるから、恋の相手に後見を求める必要も無い。容色に自信のある姫を持つ親なら、それとなく自分の娘を勧めてみることもある、なんて噂を姫同士の集まりで聞きつづければ、警戒をしなくっちゃって思うもの。 「見えぬ月を想うように、すげない貴女のことを、どれほど胸に描いたことか」  知ったこっちゃないわよ、なんて言えないから無言で笑みを顔に張り付けておく。すべての事をそつなくこなし、顔も悪く無い上に家柄も申し分なく財力もあるとなれば、もてはやされて当然なんでしょうけれど、あいにく私はそういうの、趣味じゃないのよね。恋に恋したり、愛しい人を思いすぎて袖を涙で濡らしたり、恋煩いで寝込んでしまうような繊細で可憐な姫君たちとは違うのよ。 「今宵は、ゆるりと語り合いたいものです」  何を、なんて野暮なことは聞かない。男女のささやきを交わす相手としては、世間一般からしたら不足が無いどころか十分に過ぎるんでしょうけれど、想像をするだけで鳥肌が立ちそうになる。 「そのような、ことは」  恥ずかしげに目を伏せて、扇を二人の顔の間に差し込む。こうすれば、私がかわいらしい姫君という印象で終わるし、相手の自尊心も傷つけない。さ、他の花の元へ飛んで行ってちょうだい。貴方という蝶が止まるのを、待っている姫は他にいるんだから。 「私の文は、貴女に届いていないのでしょうか」  ぎゅ、と指を握りしめられる。おっと、引いてはくれないわけね。 「――いただく文は、どれも素晴らしく……返書をしたためるのにもためらわれるほどで…………」
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