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第15話

「実際は、獣だったりして」  近貞は陰陽師のように、人では無いものを人のように扱っていて、久嗣は本当は人ではないものなのかも。 「――なんてね」  自分の考えにつぶやきながら、出したものを片付けて灯明を消す。満月は過ぎたけれど、まだまだ明るい月光を頼りに、几帳(きちょう)の奥の(しとね)へ横たわった。  目を閉じると、久嗣のあの獣のような瞳に見られているような気がして、一度体を起してみる。 「――いるの?」  声に出してみたけれど、返事があるわけも無く――。 「そうよね」  いるわけ、無いわよね。さっき出て行くのを、見送ったんだから。  息を吐いて、横になった。  そうしてゆっくりと眠りに入り、夢の縁へ足を踏み入れた時、かたんと天井から小さな音が聞こえた気がした。 ◇◆◇  新月の宴。  なんでもかんでも、こうやってすぐに集ろうとするのは、武家も公家も同じなのかしら。観月の宴の次は、新月を愛でるなんて。  武藤家の宴に呼ばれて、私はまた退屈をしつつ近貞か久嗣の姿が無いか、さりげなく周囲を見回してみる。あちらこちらに姫が座り、その間を公達が行き交っている。  集められた姫は、大体が私と同じくらいの年ごろ。公達も、同じくらい。主催の武藤家の頭領様の挨拶によれば、息子と同年配の公達や姫らとの交流をしたかった、とのこと。観月の宴の時は、遠目だったこともあって、どんな方かきちんと見ることはできなかったけれど、今日は傍近くの席へ進んだからしっかりと顔を確認できた。  少し幼さのある、愛嬌があると言ってもいいくらいの、くりっとした瞳をした偉丈夫、という感じ。体は、とても大きくて、岩のよう。衣の上からでも、立派な体躯をしているんだろうなってわかるくらいで、挨拶の時に盃を持ち上げた腕は、父様の倍はあるんじゃないかと思うほどに、太かった。  これが、武家の男なのね――。  あまりに見すぎていたからか、目が合ってしまった。あわてて逸らすのも変だし、にこりと笑いかけてみれば、いたずらをする子どものような顔で、笑いかけられてドギマギしてしまった。
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