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第14話

「俺様は、ずっと昔から大人だったからなぁ」 「何、それ」  呆れと共に、笑みが湧き起こる。いつの間にか、警戒心は消え失せて古くからの知り合いのような心地になった。 「何か――」  飲み物でもと立ち上がりかけた腕を、掴まれる。その強さに、心臓が跳ねた。 「内緒、だから」  唇に人差し指を当てて言う久嗣の目が、灯明にきらりと光る。それは闇夜に見えた獣のそれのようで、膝から力が抜けて、ぺたんと座り込んでしまった。 「誰にも、内緒のほうが都合がいいだろう?」  顎を引きながら、久嗣の顔を見つめる。なんだか、人では無いみたい。  くしゃ、と表情を崩した久嗣が文机に顔を向けて 「墨、乾いたみたいだね」  文を手にして、くるくると畳んで懐にしまうと 「それじゃあね。かぐや姫」  来た時と同じように、部屋の隅の影に身を滑らせるように沈んで、消えてしまった。 「――は」  息を吐いて、瞬く。  近貞からの文を手にして、文面を確かめながら近貞と久嗣の顔を思い浮かべる。なんだか、現実の事のようでは無い気がしたけれど、文は確かにここにあって、私が返書をしたためるために出した墨の香りも部屋にある。 「変な人」  簡素な、何のひねりも無く歌も無い手紙をもらったのは、生まれて初めてだった。近貞には、そういう教育がされていないのかもしれない。武家には、そういう風習が無いのかも。けれど、それは全く、不快じゃ無かった。近貞の部屋の簡素さと重なって、思いついたことを口にしながら行動に移した姿と合致して、それが近貞という人なんだって思えた。  そんな近貞だから、とらえどころの無さそうな久嗣が、傍についているのかもしれない。馴れ馴れしい態度なのに、不快に思わせない久嗣。無礼なと叱りつけてもおかしくない事をされたのに、わずかも気にならなかった。へらへらしていると思ったのに、待つ間にお茶でも出そうと萩を呼ぶために立ち上がりかけた私を、制止したあの目――。  ぞく――。  思い出して、背筋が震える。宵闇に、眠れなくて庭を歩いていた時に、ふいに出くわした獣の瞳のような光だった。あれが、久嗣の本質なのかしら。
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