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第13話

 部屋に、もとから用意をしておくようにしておいてよかった。他の姫たちは文の返事を書くために、紙の種類を選び、墨を選んで用意をするよう言いつけるのが普通だけれど、そういうことが面倒で、しかも家名があるとはいえ家計は苦しいことを知っているから、選ぶほどの用意を整えられないことを知っているから、最初から部屋に用意をしておくようにしていたものが、こうして内密のやりとりをするのにも役立つなんて、思ってもみなかった。  ――内密のやり取り。  その言葉に、ドキッとする。  別に、隠す必要は無いのかもしれない。名門の姫が琴ではなく弓の手習いに熱心だなんて外聞が悪いから、そこは隠さなくちゃいけないけれど、近貞とのやりとりは、はばかる必要は無いんじゃないかしら。ああでも、もし彼に恋文を交わす相手がいるのなら、誤解を招いてしまうかも。だったら、内密のやり取りをするのが一番いいわね。近貞の家柄や身分によったら、父様に迷惑をかけてしまうかもしれないし。  そんなことを思いながら、筆を執った。  ――――  近貞様  あの夜の月は、本当に見事で自分の魂をあの月に向かわせたくなり、つい人目をはばかりつつ弓を引いてしまいました。けれど、それを見られていたなど思いもよらず、大変に驚きつつ、私も近貞様が同じようになされたと聞き、うれしく存じます。  菓子は、とても喜ばれました。御心遣い、感謝いたします。  互いの腕を披露しあう、というお話。私も、そのようなことが叶うならば、と願います。  かぐや  ――――  歌も何もない、簡素な手紙の返事だし、私も文面を深く考えて書かなくてもいいでしょう。読み直して、筆をおき、墨が渇くのを待つ間に久嗣に話しかけてみる。 「ねえ」 「ん――?」 「近貞に仕えて、長いの?」 「長い長い。若様がこんなくらいから、ずっと一緒にいるからね」  そう言って、久嗣が示してみた大きさは人差し指と親指を少し丸めた長さしか無くて 「それじゃあ、スズメと同じくらいじゃない」  あははと笑った久嗣が、気持ち的にはそのくらい小さなころからなんだよ、と言った。 「じゃあ、久嗣もそのくらい小さかったってことなんじゃ、ないの」
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