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第12話

「かぐやちゃん。文のツバメが飛んできましたよっと」  突然、闇の中からにじみ出るように現れた男に、私は驚きのあまり声も出せずに硬直してしまった。そんな私に、女たらしの公達(きんだち)のような、相手のことを探りつつも警戒を解こうとする印象のある笑みを浮かべて近づき、目の前でしゃがみ込むと 「ほい」  文を、差し出してきた。驚きのあまりに、相手の顔から目を逸らせないまま、手を伸ばして文を受け取る。 「そんな、俺様が男前すぎるからって、見つめないでくんない?」  照れちゃうだろ、なんて言う顔は、細面に少し垂れた切れ長の目が冷たくなりそうな印象を和らげて、歌会なんかで集まる姫君たちが見たら黄色い声を上げそうだけれど――。 「自意識過剰すぎるんじゃない」 「そう意識させちゃうくらい、周りがうるさくってね。――あ、俺様の名前は聞いているよな。久嗣っての。ヨロシクね」  しれっと言った久嗣が、胡坐(あぐら)をかいた。 「――文を渡したのなら、もう用事は無いんじゃないの?」 「あれ? すぐに読んで返事を書くもんなんじゃないの? こういうものは、さ。――――ああ、それとも焦らしてみるつもり? 悪い姫さんだなぁ。ま、いいや。もし返事をうちの若様に出したいのなら、次に俺が来る時まで、受け取れないぜ。なんせアンタは、俺を呼びだす術がない」  にぃ、と歯を見せて笑ってくる久嗣は、小面憎いくらいに失礼な態度なのに、妙に似合いすぎていて気にならなかった。 「あ、そう。そうね――じゃあ、ちょっと待っていてちょうだい」  それどころか、素直に文を広げて読み、返事を書かなくちゃという気にさせられた。 「素直だねぇ」  いい子いい子、と頭を撫でられ子ども扱いされたことに唇をとがらせてみたけれど、悪い気がしないことに首をひねる。――そういう態度が、自然だからなのかしら。  ―――――  かぐや殿  あの月を射ていた姿は、本当に素晴らしかった。  あの月を射ようとしたのは、俺だけだったろうと後で父上に言われ、かぐや殿も俺と同じように月に魅せられたのだと、あの宴の席で同じように月を狙ったのは俺と貴方だけだったのだと思うと、何やら嬉しくなった。  いつか、本当に弓を構え、矢を(つが)えて、互いの腕を披露しあいたいと思う。  近貞  ――――― 「あらら。色気も何もないなぁ。ま、予想はしてたけどさ」  なんだか近貞らしい、と口元をほころばせたところに久嗣が顔を覗かせて、あわてて文を胸に抱いて隠す。にやにやとする久嗣に、ふいと顔をそむけて紙と墨を入れている箱を開けた。
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